あの夏の日、
とある街の、とあるバス停で
もう二度と会えないと思っていた君に出会った。
うっすらと雨の匂いの染みた二車線道路に
いつかの淡い想いが、しまったはずの記憶が、
ちらつくように喉の奥を刺す。
どうしようもない、あの夏の日の思い出。
だけれど、どうしてだろう、君の、君だけの
けはいが、せなかが、もうどこにもいない。
あの街と、あのバス停と、あの二車線道路と、
いっしょに押し流されてしまった君の輪郭を、
ただ、ただ、ただ、ただ、
いつまでも、いつまでも、追っている
。
(奇跡をもう一度)
雨が降る下り坂を
傘も差さずに歩いた
道路脇をいつかの花びらと
不甲斐なさが流れている
こんなのはとんだ三文芝居だ。
横隔膜の上の気持ち悪さが
僕の息を邪魔するんだ
視界の端、道行くランプが鬱陶しい
こんな悲劇のごっこ遊びがしたいわけではないんだ
ああ、
ああ、
どうか優しくしないで
生温い毒はもううんざりなんだ
もう、優しくしないで。
(優しくしないで)
私ごとですが、
二年の浪人生活の末、ようやく努力が報われました。
支えてくれた全ての人に
感謝を。
過ぎ去った日々に、
乾杯。
秋雨といふには遅き雨降れり。
七十二候は紅葉の蔦黄ばむとあるを、
木々も並べてならぬ暑さに戸惑いけるにや、
その便りもいまだ聞かず。
しのぶることの多き世なれど、
いつか時めく夢見て、
などか諦めるよしあらむ、
いまだ散るほどにあらずと
勉むる人のいかで羨ましからむ。
もみぢ葉や
時ならぬ雨風
荒るとも
染め果つまでは
散らぬとばかりに
人言ふ、ままならぬ世ほど面白きはなし。
めっきり寒くなりました。
いつのまにか鈴虫の声もなくなって
しんとした静けさが
住宅街に降り積もる。
こよみの上では
明後日は霜降、もうじき霜も降り始めるそうです。
半年ものあいだ、衣装棚に眠っていたコートも
出番を今か今かと待っていることでしょう。
秋と冬の狭間の、
昼は忙しく夜は静かなこの時期が
僕はわりあい好きです。
昼は目いっぱい身体を使って、
夜は風呂であたたまって
外界のあれこれをぼうっと遠く眺める。
そうして寝床に潜ったあとは
秒針がチックタックと回るのを聴きながら
ひとり、まっくらな部屋で
どこまでも深い天井を眺めるうちに
僕の心臓が
冷えた空気から得た酸素と
和やかな心地よさとが混ざった血液を
送りだす音が聞こえるのです。
(衣替え)