なんでもない日の筈だった
出会しさえしなければ
思わず目を逸らした
叱られる子どもみたいな惨めさで
全てを捨てて歩み出したつもりだった
再び新たに進み出した筈だった
捨てきれなかった身体を抱えて
ベッドでただ丸くなる
筆を進めるたびに
背筋を悪寒が往復する
また
尻尾を捨てた。
なんでもない日の筈だった
不甲斐なさに蓋をして
情けなさに鍵をして
自己嫌悪は深い深い、砂の中へ
苦労して埋め込んだ
それらがいっぺんに放り出される
そんな日がいつか来ることも
手を止めるたびに
背筋を悪寒が往復する
また
尻尾を捨てた。
見て見ぬふりをしていたのも
忘れたふりをしていたのも
わかっていたさ、わかっちゃいたんだ
でもなぁ、でもなぁ、
俺は蜥蜴になりたかった。
詩を綴ろうとするたびに
背筋を悪寒が往復する。
また
尻尾を捨てた。
(トカゲ/逃れられない呪縛)
夜に泳ぐ白いくじらが
流星を一粒飲み込んだ
春霞に沈んだ灯籠の海の
その底から生えたビルの中で
潮の流れを聴いている。
時おり赤いテールランプと
エンジン音が染み出した
三十二階、
夜空一杯分のカクテル
そんな気分になった、
君の目を見つめると。
薄暗い部屋で起き出す
たまらずくしゃみが一つ
外の世界はもう春らしい
花粉が鬱陶しいな
ちょうど日付が変わった
まあるい月のその端に
かかる雲が秋を詠む
にわかに降り出す夕立ちに
側溝に溜まる落ち葉と僕ら
木曜日の憂鬱が
街路の灯りに影を落とす
ああ、
そんなのが嫌いだ。
結局なんだ、
畢竟なんだ、
とどのつまりは誰だったのか
今となっちゃあ、わかりもしないが。
何時だった、
何故だった、
こんなにも世界が冷え切ったのは
今となっちゃあ、どうでもいいが。
寝室に月光が差している
カーテンが飽き風で暴れる
ああ、
ああ、
はあ。
ねやのひまさへつれなかりけり。
また、
過ぎた日を思う。
(過ぎた日を思う)