半袖
半袖のシャツに袖を通すのを躊躇っていた。
その袖の中に、隠さなければいけないことがたくさんあったからだ。
日焼けを知らない肌の白さだとか、自ら傷付けた後悔の痕だとか、折れそうなほど細く骨張った腕だとか、伝えることも許されない君への想いだとか。
そこに隠れていたのは、
誰にも見せられない醜い何か。
もしも過去へと行けるなら
もしも過去へと行けるなら、
あの日見逃した流れ星を見たい。
もしも過去へと行けるなら、
食べ損ねた期間限定のアイスを食べたい。
もしも過去へと行けるなら、
君の隣でもう一度やり直したい。
零れ落ちる夜空のような瞳をもう一度見たい。
逃げることはないのに、焦ってアイスを頬張る君の表情を見つめていたい。
君が笑っていた頃に戻りたい。
もしも過去へと行けるなら、
もう二度と、この手を離したりしないのに。
星を追いかけて
『流れ星って宇宙の塵らしいよ』
なんて、夜空を覆う流星群のなかで、君はそんな夢の無い言葉を吐いた。
『宇宙からやってきて、地球に落ちて、あの星たちは何処に辿り着くのかな』
きっとみんなが綺麗だと持て囃すあの星たちは空から地に落ちて、踏み潰されて、跡形もなく消えてしまう運命を辿るだろう。
追いかけていったって、希望なんてない。
夢見れるほどの現実なんて、待ってないんだよ。
『…それでも、そうだったとしても、今見てる星空が綺麗だって思う気持ちは嘘じゃない。本当はただの塵だなんてわかってても、何度だって手を伸ばしたいよ』
星なんて、追いかけるだけ無駄だ。
だけど。
君が瞳に映す小さな夜空は、泣きたくなるくらいに煌めいて、とても綺麗だと思った
今を生きる
あの日、真っ青な空に君が飛び込んだ後のお話。
君がいなくなった後も普通にお腹は空いて、眠たくなって、明日を迎えた。
君はいなくなったのに、世界は今日も廻り続けている。
屋上から飛び降りて自殺なんて、どこにでもあるありふれたお話。よくあるニュースのひとつ。
そうやって世間からはすぐに忘れられ、君のお話は風化していくだろう。
それでも、そんな救いようのない世界でも
生きてさえいれば何か残せたんじゃないかと思うんだ。
君が隣で、生きてさえいてくれれば。
拝啓、あの空に溶けていなくなった君へ。
君のお話をぼくは忘れない。
ぼくだけは忘れてしまわないように、今を生きていく。
飛べ
青天の霹靂。澄み切った青空。
手を翳して透かした空は痛いくらいに眩しかった。
自由な空に飛び立つだけだよ、大丈夫。
きみに会えなくなるのは、少し寂しいけれど。
それは、決して悲しいことじゃない。
飛べ。
飛んで、こんな世界にさよならしよう。
そして、また会えたならもう一度。