たとえ間違いだったもしても
迷い癖のある私。
アイスクリームのフレーバーを選ぶような
小さなことですらパッと決められない。
「杏さん迷ってる?もしや。」
「うう、お察しの通り…」
「いいよいいよ、ゆっくり悩みなー」
なかなか決められない私を
なんにも気にしない様子のシロくん。
「ごめんねいつも優柔不断で…」
「ぜーんぜんっ」
そう言ってニカッと笑顔をくれる。
苦悩の末やっと注文を決めて
近くのフードコートで食べることに
「んまぁ!」
「杏さんほんといい顔で食べるよね笑」
「久しぶりに食べたけど最高や…!」
「その味で正解?」
「間違いなし!大満足!」
「そゆとこほんといいよねぇ、杏さん。」
「??」
「杏さんは決めたことには絶対に後悔したり、
やっぱりあっちのがよかったなーとかクヨクヨしたりはしないなって。
今日みたいにアイスのフレーバーでも、人生を左右するような大きな決断でもさ。
たくさん時間かけて迷うし悩むけど、出した答えには迷いがないというか。」
「あー、それはそうかも。」
「その時の自分の最上の答えだから
間違ってたとしてもそれはそれで受け入れるって
前に言われたのすごいかっけえなって覚えてるんだよね。」
「そ、そう?」
照れくさくて、へへへと笑う私。
「そゆとこも好きよ?」
彼にそう言われて
また自分のことを少し好きになれた…気がする。
雫
「今日はお祝い!!飲む!!!」
大親友の友人の結婚式の三次会迄楽しみ尽くした彼女がまだ飲み足りないと帰ってきた。
「杏さん大丈夫?」
「全然へーき!!」
「まぁお酒は強いって知ってるけど。」
とりあえず水を飲ませようと準備していると
彼女はお酒専用の冷蔵庫から大事そうに取り出してきたお酒を見せつけてきた。
「…雫酒」
「一緒にのも?って明日休みだよね?」
「うん。俺はへーき。」
「よし!のも!」
小さく乾杯をして
彼女は美味しそうにお酒を飲む。
俺も一口飲むと、彼女がドヤ顔でこちらを見ていた。
「美味しいっしょ」
「んまい。すごい美味しい。」
「そ」
何もいらない
シロくんは優しい。
一緒にいるとお姫様になったんじゃないかって
思うくらい甘やかされている自信がある。
過去にこんなに優しくされたことがなかったから
初めは戸惑うこともあったくらいだ。
さりげなく車道側歩いてくれたり
飲みでもご飯でもリサーチ完璧だし、
とにかくこっちが気づく前に色々気がついて
サラリと自然に助けてくれるのだ。
「シロくんって優しいよね。」
ある日。
職場の仲間で飲んだ帰りに送ってくれるという彼に
酔いに任せて聞いてみた。
「え、俺すか?普通ですよ笑」
「いやいや。こんな優しい人会ったことないよ」
「ほんと?やった!」
「あはは笑」
「今度はちゃんと私がリードしていい飲み屋探さなきゃな!!」
「…」
「え?どしたの?」
シロくんが私の手を取っていた。
ドキッとして彼を見ると、彼は真剣な顔で
「俺は、杏さんになんかして欲しいって思ったこと何も無いよ。」
「あ、、そっか、ごめん、見当違いのこと言ってたかな?」
「そうじゃなくて、その、何にもいらないからさ」
真っ直ぐな瞳に撃ち抜かれそうになる。
ドキドキしながら続きを待つと彼は続けた。
「俺を好きになって。」
無色の世界
人と仲良くなるのが苦手だった。
嫌われるのが怖いから。
こう言えば嫌われるかも。
こうしたらウザがられるかもしれない。
学生時代の失敗を引きずって、
大人になってからも他人と深く関わることを
避けて生きてきた。
周りから見たらきっと
見えてるようで見えていない
透明人間のような存在なのかもしれない。
それで良かった。…はずだった。
だけどシロくんに出会って
世界が変わった。
彼は私と一緒にいたいと言ってくれた。
人付き合いが苦手な私を
それも貴方だと受け入れてくれた。
私がわがままを言えるようになったのは
間違いなく彼のおかげだ。
付き合ってしばらくしてから
彼に聞いてみた。
「どうして私だったの?」
そう言うとシロくんは
ふふっと笑って
「杏さんを初めて見た時、キラキラってしてたんだ」
と言った。
「キラキラ?」
「他の人とは違うって直感したの。」
「そんなこと言われたことないよ?目立たないとはいよく言われるけど。」
「めっちゃ目立ってたよ?少なくとも俺には」
「…そう、なんだ」
その真っ直ぐな言葉は、
私の心にずっと染み込んでいく。
そしてまたひとつ、
私が色づいていくのだ。
桜散る
「今年ももう桜終わっちゃうねぇ」
彼女はベランダで残念そうに桜の木を眺めながら晩酌のビールを飲んでいる。
俺は夕飯の食器の片付けをしながら
彼女の話を聞いていた。
「杏さんがこの部屋に引っ越す事にした決め手だったもんね」
「そう!!ここはお花見最強スポットなんだから!」
「めちゃくちゃドヤ顔してる笑」
彼女は新居の内見の際に窓から見える
桜をいたく気に入ってこの部屋に引っ越すことを決めたのだ。
『お花見が家でできるのすごくない!?』
興奮気味なメッセージと共に写真が送られてきたのを
よく覚えている。
「秋の紅葉も好きだけどさー、咲き始めのワクワクする感じが桜にはあって好きなんだよね。」
「ふふ、そうなんだ。」
みんなでまだかな、まだかなって待ってさ、
役所の人が仰々しく双眼鏡で確認して
開花だ!!!って宣言するの。
なんか、可愛いというか愛おしくなるんだよね。
そう言って彼女は散り始めた桜を
名残惜しそうに眺める彼女。
片付けを終わらせて彼女の隣に座ると
髪の毛に桜の花びらが付いているのを見つけた。
「杏さん、髪に桜がついているよ」
「ほんと?かわいい??」
「ふふ、確かにいつもより可愛く見えるね」
「シロくんは優しいなぁ」
本当のことだからね、と俺は彼女に口付けた。
桜を愛おしむ気持ちも、散ってしまうのが少し寂しいと感じる気持ちも、貴方に出会って知った。
だから来年もまた2人で桜を眺めて
なんでもない話をしようね。
そんな想いをこめて、もう一度口付けた。