「ただいまー、…ん?なにしてるの?」
「あ、おかえり。夕飯作ってみてるんだ。なにもしないのはさすがに申し訳ないし…」
なるべく急いで帰ってきたのであろう晴仁に、ふわりと笑みが漏れる。ほら俺のためにこんなにも必死になってくれる。
晴仁は俺の世界で唯一の、そしてかけがえのない輝き。
「そんなことしなくていいのに。菜月は俺に捕まってればいいんだってば。でもありがとう」
「んふふ」
後ろからぎゅっと痛いくらいに抱きしめられて、滲んだ笑みが零れる。
うれしい。
あったかい。
ひつようとされてる。
「…ごめんな」
「……んーん」
とたんに消えるように震えた晴仁の声に、さらとちいさく首を振る。
外の空気で冷えた晴仁の頬に擦り寄る。
謝らなくていいって言ってるのに。
「…晴仁がいなかったら俺いまいないよ」
躊躇う晴仁にこてんと頭を預ける。
晴仁のなかでは結論出てるくせに。現にこうして俺を捕まえてるじゃないか。そういうとこだよ、ほんと。
「菜月はこれでしあわせ?」
「うん、しあわせ」
「…ん、俺も」
黒く堕ちた瞳に、歪んで滲んだ笑み。
世界の端っこの、ふたりだけのせかい。
滲んだ笑みを返しては、唇をどちらともなく触れ合わせた。
地獄から連れ出してくれてありがと。
輝き #184
(“警察は失踪事件として調査を進めています”)
どっちかって言うと止まるな、なんだよな今。
なんかもう疲れた。もうどうでもいい。どうにでもなれ、はやく終われ。全部終われ。
あと約1週間だよ、頑張れ。って言い聞かせるのまじで疲れた。これど終わったってまた何ヶ月かあとにはあるじゃんね。
ぜんぶ終わりにすればおわるのかな。
…このお題前も見たことある気がする。前なにかいたっけ。
余裕なくてごめんなさい。
「生まれてきてくれてありがとう」
はあ。ご苦労さまです。
そう言うしかないですもんね。
「好き、です…」
卒業式の桜の下、俺の袖を掴んで引き止めた後輩。
消えてしまいそうな震える声だった。
「…ありがとう」
目を開いた彼が、ぱっと顔を上げる。
その顔には、なんで…と戸惑いと驚きが滲んでいた。
すっと目線を逸らす。
…ごめん、知ってた。
ついでにこの日に告白されることも知っていた。
さぁ、と桜に吹かれる。
彼の比較的長めの髪がそよそよと拐われてく。
応えたくなる唇が震える。慌ててぐっと唇を噛んだ。
だめ、だめだ。
ここで間違えたら、また繰り返されるだけ。
「…でも、ごめん」
たのしかった。たのしくないわけがなかった。でも、こうなるって分かってると、…やっぱりどの思い出にも切なさが滲んでいるんだよ。
つぅと涙が一筋、俺の頬を伝っていった。
未来の記憶 #183
(お題が最近専ら考えていた小説のネタにピンポイントすぎる…上の話はその小説書くためのいくつか思いついた候補のなかで没になったもののひとつ)
「久しぶりだね〜」
「…そう?」
敷いたばかりのレジャーシートにごろんと転がった友人が、視界いっぱいに広がる星空を前にして感嘆の声を上げた。
「そうだよ! 去年はふたりとも受験で来れなかったじゃん、毎年恒例の天体観測! だから今日来るの楽しみにしてた!」
満天の星空を写した無邪気な横顔に、ちくりと胸が痛みを孕む。
…だから来たくなかったんだ。
寝転ぶ彼の隣に一人分作られた空間。「早く来なよっ」とその表情で言われると断ることなんかできるわけもなくて。
心臓の音が伝わらない程度の心の余裕である、少しの間を空けてそっと隣に寝転んだ。
「むぅ」
「……、」
心の余裕の距離はいとも簡単に詰められた。
首ごと横に回すと、ぱちっと音がして世界が重なった遠い数センチ。
「距離遠くない? なんかよそよそしいし。…前はもっとくっついてきてた」
さみしい、と傷ついたように目を伏せて、きゅっと手を繋いできた彼。
…ほらこうなる。僕がこんな感情持ってるせいで、うまく隠せないせいで、彼のことを傷つけてしまう。
どれくらいの時間がたっただろう。数分だったかもしれないし、何十分だったかもしれない。果てしなく長くも短くも感じられた。
「…あっ! 流れ星!」
その声にゆるゆると顔を上げる。
僕が視界に捉えてすぐ、それは闇夜に溶けていった。
「なにかお願いできた?」
ちらりと視線をやると、きらきらとした表情で。
僕はまたきみに恋するんだ。
「したよ! 内容は…教えないけどっ」
「できたんだ、いいなぁ」
「そっちはどうなのさ」
不安げな上目遣い。
これも無意識なんだろうな。
「思いつく前に消えちゃった」
ふふ、と力なく笑ってみせる。
願うなら…そうだな。
___この想いをすべて消してください。
星に願って #182
(設定としてはこの世界は夏らしいです。寒い冬の星空の下、寝転んでるのは可哀想だなと。…この寒さで外で寝るなんて…考えただけでも風邪ひきそう)