ごめんね。
ずっとずっと負い目が拭いきれないんだ。
きみの隣に俺がいていいのか、という負い目。
だって、俺が隣にいることできみも後ろ指をさされ、こころのどこかで怯えながら生きていくことになるんだ。
結婚もできない。
夫婦と呼ばれる普通を名乗れない。
俺と同じ思いをしてほしくない。
俺といることで傷ついてほしくない。
ぐちゃぐちゃの感情のままそう吐き出したら、
「...お前と離れるより全然いい」
なんて言われたっけ。
ひとりきりのベッドのなか、冷たい息を吐き出す。
あの日と同じように窓の外では雪に不似合いな赤のライトがちらついていた。
─夫婦─ #121
まだBLの存在を知らなかった頃に、NLの小説を書いていたときのはなし。
NL書いてたはずなのに、なぜか変な方向に曲がってあれよあれよという間に、今思えばぜったいBLじゃん、の小説が出来上がってた。男同士の恋愛を知らないはずなのに。
いちおNLで完結させてたと思うけど、描写は男同士のほうが圧倒的に多かった。
ちょっと読み返したい…ああ削除しなきゃよかった…
─どうすればいいの?─ #120
(どうしようもないほど根っから腐りきってたし、削除したから読みたくても読めないしで、いろんな意味でこれどうすりゃいいの?)
「...俺の宝物? そんなの訊いてどうすんだ」
「宝物ってさ、幸せの定義と一緒でなんだかよく分かんなくない? これが俺にとっての宝物です、なんて簡単に言えないよ」
「簡単に言えないから宝物なんじゃないか?」
「...どういうこと?」
「宝物だって言えるほど大切なものが見つかってないから、そう思うんだろ。それこそ幸せの定義と一緒で、別に探すもんでもねえんじゃね? 気づいたときには、それが宝物になってたりするもんだろ」
「...ふーん。よくわかんないや」
「ま、いつかお前も見つかるだろ」
「“お前も”って...そっちはもう見つかってるの?」
「......」
お前と過ごしているこの時間が宝物だなんて言えるかよ。
─宝物─ #119
闇夜にひとつ、あかりが灯りました。
小さな小さな蝋燭の火です。
暗い世界にひとり取り残されていた少女は、突然照らされた世界に困惑し、その明るさに怯えました。
蝋燭の火といえど暗闇に慣れていた少女にとっては、眩しすぎるものだったのです。
しかし、そのあかりのおかげで今まで見えなかったものが見えてくるようになりました。
黒一色だと思っていた世界は、実は色鮮やかで楽しいものだと気づきました。
その蝋燭の火が少女にとっての幸せだったのです。
そして少女は蝋燭の火の暖かさと明るさに慣れていくのでした。今までずっとひとりぼっちの寒さと暗さが当たり前だと思い生きていたことなんて、忘れていました。
蝋燭の光がふっと消えたのは、それが当たり前になってしばらくした頃です。蝋が切れたのでした。
闇夜の世界にひとり。
火が灯ったときと同じように困惑し、その暗さに怯えました。
それが以前には当たり前だったのに、です。
幸せを知ってしまったからには、闇夜の世界が当たり前だと思っていたときのように生きていくのは無理でしょう。
少女は今日も、暗闇のなか寂しさと哀しみと絶望を抱えながら心で泣いています。
当たり前がこんなにも辛く感じるようになるなら、最初から幸せなんて知らなくてよかったのに────、
─キャンドル─ #118
未来の自分にとっての想い出を生きている。
─たくさんの想い出─ #117