闇夜にひとつ、あかりが灯りました。
小さな小さな蝋燭の火です。
暗い世界にひとり取り残されていた少女は、突然照らされた世界に困惑し、その明るさに怯えました。
蝋燭の火といえど暗闇に慣れていた少女にとっては、眩しすぎるものだったのです。
しかし、そのあかりのおかげで今まで見えなかったものが見えてくるようになりました。
黒一色だと思っていた世界は、実は色鮮やかで楽しいものだと気づきました。
その蝋燭の火が少女にとっての幸せだったのです。
そして少女は蝋燭の火の暖かさと明るさに慣れていくのでした。今までずっとひとりぼっちの寒さと暗さが当たり前だと思い生きていたことなんて、忘れていました。
蝋燭の光がふっと消えたのは、それが当たり前になってしばらくした頃です。蝋が切れたのでした。
闇夜の世界にひとり。
火が灯ったときと同じように困惑し、その暗さに怯えました。
それが以前には当たり前だったのに、です。
幸せを知ってしまったからには、闇夜の世界が当たり前だと思っていたときのように生きていくのは無理でしょう。
少女は今日も、暗闇のなか寂しさと哀しみと絶望を抱えながら心で泣いています。
当たり前がこんなにも辛く感じるようになるなら、最初から幸せなんて知らなくてよかったのに────、
─キャンドル─ #118
11/19/2024, 1:31:15 PM