知らぬ間に沈み込んでいるあの夏の日の記憶の中だ。
「────…南ーっ」
突然、現実の世界に引き戻される。
ざざーん、と海の波の音がやけに大きく響いた。果てしなく続く海にぱっとピントが合った。
「遅れてごめーん!」
砂浜を駆ける音が脳内を揺さぶる。
砂を散らしながらこちらに一直線に駆けてくる友人の夏露の姿に酷く安心した。
肩にこもっていた力がゆっくりと抜けていく。
「遅い」
「ごめんってー。南、ずっと待っててくれたの?マジでごめ────…っ、わぶ…っ」
ざざーん、と静かに響いた波の音がBGMのように聞こえた。
数秒の間の後、聞こえるように呟く。
「だっさ」
ずささーっと砂浜での滑り込みで俺の目の前に到着した夏露。つまりは俺のまえで盛大に転けた。
こいつはほんと俺を飽きさせない。
「う、うう~…、めっちゃ恥ずい…、余裕で死にそうなくらい恥ずい…」
「いつまでそうしてるつもり」
「だ、だってぇー…」
転けた体勢のまま動かないそいつに笑みが零れる。
「ほら、立て」
「……ん、」
一瞬躊躇した右手を差し出す。
空気が変わらずに夏露が俺の手を取ったことにどれだけほっとしているか、きっと夏露はしらない。
「…ふ、」
「っ、笑った…!いやっ、確かに南の笑みってレアだけどさっ、ここで笑うなよっ」
揺れる水面が、熱い砂浜が、太陽の光できらきらと輝いてあた。
このときはまだ友達になれてよかったと、そう思っていた。
─友達─ #105
南、夏露
(また寝落ちて投稿できてなかったし…。昨日のやつのほうがよくかけてた気がしてしまう)
行かないで。
その一言が喉の奥につっかえる。
滲む視界が鬱陶しい。
泣くな、泣かないで。
最後まで、笑顔の僕でいてってば。
─行かないで─ #104
君の瞳に写る、どこまでも続く青い空ほど綺麗だと思った景色はない。
放課後の教室でじっと眺めていたら、君は視線を感じたのかこっちを向いて、ふわり、恥ずかしそうにはにかんだんだ。
触れたら壊れてしまいそうだった雪のような頬は、ほんのりと染まった。
窓から見える、抜けるような青の空には一本の飛行機雲がかかっていた。
…ああ、この“好き”を吐き出せたらどんなにいいだろう。
呑み込ませた“好き”が酷く心臓を締め付ける。
─どこまでも続く青い空─ #103
小さい頃、よく親に「そろそろ“子供替え”かな」とその子供替えの説明をされた。
私は親の言うことをきかない悪い子だからいらない。他の子供ととりかえようかしら、と。
向こうはたぶんもうそんなことを言ったことも忘れているのだろう。
そして、小さい頃の私にとって、それがどれだけ怖くて恐ろしくて、心を縛るものだったのか、知る由もないんだろうな。
まして今だってこうして忘れられずにふとしたときに心を氷色に染め上げているなんて知りもしないね。
─衣替え─ #102
(衣替えと聞いて真っ先に思い付いたのが子供替えのことでした。今の私、他のものを考えるほどの余裕なかったみたいです)
叫ぶための声は、でませんでした。
叫ぶまえに枯れてしまいました。
声を圧し殺して泣くのに慣れてしまったからでしょうか。
いつだって喉の奥に呑み込ませて、呑み込ませて、それでも苦しいときには生きているって実感する証を何度も何度も切り付けて。
そうやって言葉を呑み込んできた、口無しの私は、自分の感情すらうまく吐き出せないのです。
言いたいことはありません。
伝えたいこともありません。
口無しの私は呼吸の仕方もしらない。
あなたの理想とは違うかもしれないけど、あなたに理想をぶつけられて中途半端に歪んでしまった私だ。
こんな歪んでる人間を愛してくれる人なんていない。理想になれなかった私じゃ価値がない。もともとの手の加わってない私はもういない。
わかっている。わかっているのに、この手をすり抜けるすべてが愛に見えた。
お願いです。
生きてていいよって、私が透けていくまえに、だれでもいい。認めてください。
─声が枯れるまで─ #101