しずく

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7/28/2024, 12:03:40 PM

「お祭り以外でも会いたい、とか思ったり、して」
きゅっと手を握る。
苦し気に落とされた返事は、ごめん、だった。
「もうこれからのお祭りでも会えない」
「え?」
年に一度だけ。
なのに、それすらもなくされそうになるなら。
…欲張んなきゃ、よかった。
「ごめん。俺、もう時間なかったんだ」
どういう意味?と開きかけた唇。
目があった君の姿を見て、震えた。
どうして、なんで。
でも、全てが全て繋がって理解してしまった。
ああ、だから。
体温がひんやりして涼しげなのも、
透き通るような雪色の肌も、
毎年見るたびに変わらないその背丈も、
そういうこと、だったんだ。
だから、お祭り以外では会えなくて、これから会えなくなる理由が時間がない、なんだ。
じゃあね、と透ける唇が紡いで。
いかないで。いかないで。
慌てて腕を掴もうとした手は、ひんやりとした体温を感じることなく、空を切った。
つうっと伝った透明な涙はお祭りの賑やかな明かりを閉じ込めるように写していた。



─お祭り─ #16

7/27/2024, 11:42:43 AM

死にたい。世界中の人間がいなくなればいい。
少年が口走ると、同時に堕ちてきたのは神だった。
「私が折角生み出してやった命───」
粗末にするでない。それは少年の耳に届いたのか。
黒で塗り潰された少年の瞳にはどう写ったのだろうか。

「はっ。生み出してやっただ?…笑わせんな。
   ────これでもう人間が生み出されることはないな」

自宅での自殺を実行する直前だった少年は生まれて初めて満たされる、という感情を知った。
神がいなくなった世界は闇へと滑り落ちていく。

少年はすでに真っ赤にまみれた包丁を躊躇いなく自分の胸に突き立てた。
どちらにせよこれからの未来、人間が作り出されることはないだろう。



─神様が舞い降りてきて、こう言った。─ #15

7/26/2024, 1:14:10 PM

誰かのためになるならば。
そうやってまた笑うんだろう?
分かんねえよ。どうして他人のためにそこまで尽くせるのか。
家でも学校でも誰かのために動いて、動いて。
なあ、それいつかお前が潰れるぞ?
「でも、周りの人が喜ぶの好きだから」
そうやってまた笑って。
いい加減気付きなってば。
こころもからだも悲鳴上げてるってこと。
否定はしない。お前の今までの人生を無意味なものだと感じさせるような真似はしたくない。しないけれど。

俺にだけはこころの本当の声聞かせてよ。
俺のくだらない話を真剣に聞いてくれたそのときのお前みたいにぜんぶ受け入れるから。
閉ざされたこころの扉をくぐるのは、俺じゃ駄目?

お前にとっての“誰か”が周りのみんな、なら俺にとっての“誰か”はお前以外に考えられないんだってば。



─誰かのためになるならば─ #14

7/25/2024, 1:36:16 PM

出たくて出たくて、でもどう足掻いたって出れない鳥かご。

飼い主の手によって丁寧に過保護に育てられた小鳥はいつからか反抗心を持ちました。

飼い主が作り上げたかったであろう、大人にとって都合の“いい子”には育てることができなかったのです。

小鳥は無表情で飼い主の言うことに頷きます。こころのなかでは反抗心を募らせたまま。

ここから出せ。
私はお前の操り人形ではない。
上から目線のその言動、何様だ。

私の人生は私が決める。

その小鳥は壊れかけていた金具を破り外の世界へと飛び立ちました。そこにはただただ広がる解放感がありました。

翌朝、鳥かごから数メートル離れたところで見つかったのは、すっかり弱り果てた傷だらけの小鳥でした。




─鳥かご─ #13

7/24/2024, 11:27:40 AM

それはかつてどこかで嘲笑った友情だった。

友情や絆なんて上辺だけの綺麗事でしかなくて、
脆くて、
儚くて、
消えやすいもの。

そう心のなかで嘲笑ったはずだった。

なのに、なのに。
…ああ、そういうこと。

友情とか絆って、
脆くて消えやすくて消えやすいものだけど、
乗っかってしまえばそれは
暖かくて、
くすぐったくて
毎日に色を落としていくもの。

すべてが全て上辺だけの綺麗事ではないと知った。


それはかつてどこかで嘲笑った友情だった。




─友情─ #12

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