その少女は小さい頃から、気味悪がられてきた。
感情が一切読み取れない無表情。
意思を見せることのない無関心。
そして、漆黒にも似た暗い瞳。
分からない。分からない。
私は何が欲しいんだろう。
なにもかもが分からない。
少女が心の中で叫ぶようにして欲しているのは、きっと愛情。
─今一番欲しいもの─ #9
名前は、親からの初めてのプレゼントだと言うけれど。
私は、その感覚がどうしても分からない。
キラキラネーム、嫌なことが連想される名前。世の中にはそうやって過去ばかり恨む人がどれくらいいるのだろうか。
そんな人たちはそんな名前を付けられたことを厭うけれど。
貰えるだけいいと思うんだ。
私なんか親の顔も知らない。
─私の名前─ #8
「なーんにも、できなかった」
少女は、屋上からの景色に、ぐぐっとからだを伸ばして欠伸をした。
「私の楽しい高校生活はどこ行ったの。これもあれも全部あんたのせいだからね」
その視線の先には、浮かんでは消える死神の姿があった。
─視線の先には─ #7
どうして、私だけ。
憎いほど透き通った空の日には、息の仕方を忘れる。
そして、自分の存在価値について陥るジレンマ。
そもそも生まれ落ちた意味はあったの?そんなことを思っても息苦しさから逃れようと、もっと息のしやすい生き方を望む。
矛盾してる。
私たちはいつも矛盾している。
私だけ。そうやって世界に背を向けた。
そんななか肩を掴んで無理矢理振り向かせたひとがいた。
私だけ、なんて所詮ほとんどの人間が持っている使い捨てでもあって使い古しでもある。私たちはみんな矛盾している。それを教えてくれたのは彼だった。
彼と世界を共有することで、粉々に砕け散っていたこころの破片をかき集めてこころとして新しくしてみて。
私だけ、なんて思うこともなくなった。
なのに、それなのに。
やっぱり世界は理不尽だ。
世界のどこを見渡したって彼は、いない。
どうして、私だけ。
─私だけ─ #6
消し去りたい、過去がある。
初めから自分をいなかったことにしたいくらいには、醜い過去だ。
その十字架を背負って今日も息苦しさを生きる。
消えたい。いなくなりたい。
死んだら海の水に帰るクラゲのように、自分の存在自体をなかったことにしたい。
存在しない存在。たぶん自分はそこに分類される。
だけど、それには限界がある。
この世の中に存在しているという事実は変えようがないし、呼吸をしているからには不可能だ。
死にたい、とはまたちがう。
消したいんだ。
油性ペンで書かれた人生は消せないことは分かっている。
死ぬ、というのは油性ペンの文字をそこで途絶えさせる、ということ。
そうではなく、書かれた紙ごと燃やして灰にしてしまいたい。
そんなことを考えていた、遠い日の記憶。
─遠い日の記憶─ #5