しずく

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消し去りたい、過去がある。
初めから自分をいなかったことにしたいくらいには、醜い過去だ。
その十字架を背負って今日も息苦しさを生きる。
消えたい。いなくなりたい。
死んだら海の水に帰るクラゲのように、自分の存在自体をなかったことにしたい。
存在しない存在。たぶん自分はそこに分類される。
だけど、それには限界がある。
この世の中に存在しているという事実は変えようがないし、呼吸をしているからには不可能だ。
死にたい、とはまたちがう。
消したいんだ。
油性ペンで書かれた人生は消せないことは分かっている。
死ぬ、というのは油性ペンの文字をそこで途絶えさせる、ということ。
そうではなく、書かれた紙ごと燃やして灰にしてしまいたい。

そんなことを考えていた、遠い日の記憶。


─遠い日の記憶─ #5

7/17/2024, 12:32:12 PM