「疑問に思ったことってどうする?」
その言葉に俺は疑問を感じるよ。
ただ、一応は真剣に考えてみよう。
「とりあえず、質問とかすんじゃねぇの?知らんけど」
「じゃあその人も分からなかったらどうする?」
「あ?だったら調べるんじゃね?スマホとかで」
「それでも分からなかったら?」
なんか面倒くさくなってきたな。質問の意図も分からないし、そもそもこいつは考えることを放棄してないか?
「じゃあそうなったら諦めればいいんじゃね」
「なんで?」
「……」
なんかイラッとする。
「あのさ、なんで、なんでとか言ってないで自分で考えれば?楽すんじゃねぇよ」
「なんで?なんでそれが楽に繋がるの?」
「はぁ?自分で考えずに聞いてばっかだからだろ。そんくらいわかれよ」
「疑問を考えないことの方が、楽してるんじゃないの?」
とりあえず殴った。
ボコボコにした。
俺が同じことをしたら、そうされたからね。これも教育だ。
「なめんなよ?自分の楽さから逃げんじゃねぇよ」
くぅ、俺かっこいい。やっぱりちゃんとダメなやつは躾ないとな。
……
こうやって、疑問は奪われ無くなって行くのでした。
終わり。
「誰かしら?」
その言葉に僕の心は凍りついた。
目の前の彼女は心底不思議そうにこちらを見ている。
まるで、本当に初めて会ったかのように。
「ほっ、本当にわからないの?」
「えぇ、初めまして、ですよね」
僕は、彼女に家が1軒建つほどの額を貢いでいる。
美味しいものも、プレゼントも、何もかも彼女の為に。
「はっ、はは」
「なっ、なに、気持ち悪い笑みを浮かべて。警察を呼びますよ」
きっと、きっと彼女は記憶喪失なのだ。そうに違いない。
「どうしたよ?」
「あっ、ハニー。よく分からないけれど、この人が付き纏ってくるの」
「あん?この野郎気持ち悪いんだよ」
左からの衝撃に思わず吹っ飛ぶ。
痛い。
殴られたのだ。
「あれ?こいつ、お前がキャバしてた時の太客じゃね?」
「あらそうなの?私、ブサイクは覚える気が無いから分からないわ」
「ギャハハ。めっちゃくちゃ貢がしてただろ。お前クズだわ」
「もう、やめてよ」
「まぁ、お前は綺麗だからな。全てが許される」
「えへへ、そうよね」
僕は、口から血を垂れ流しながら、もう立つ気力もない。
2人はいつの間にかいなくなっていた。
「……」
人間、中身が大事。うん、中身が大事だ。
中身を見抜けなかった僕が悪い。それに、外見で選んでいたのは僕だってそうじゃないか。
「は、ははは、あはは」
……嘘だ。本当は気づいてる。
見た目で選ばなくても、見た目で選んでも、どっちにしろ同じ目にあってきた。
中身を重視しようが外見を重視しようが、どっちでも同じ目にあってきた。
中身なんて、ほんとに人は見てるのかな。
「……外見が悪いやつは、ATMとしてしか生きる道がないのかな」
生きてればいいことがある。真面目にコツコツ。必死に生きなさい。
本当に?
「……あはは、そうか、そうだよね」
ATMとしてしか役に立てないのだから。ATMとしてしか見られてないのだから。
「ATMとして、働かせるために、そうやって洗脳するわけだ。あはは、あははははははははは」
そうか、ATMが欲しいのか。
だから、真面目に働かないと周りは弾圧してくるのか。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハ」
新聞の一面に、無差別殺傷事件の記事が出る。
さぁ、貴方は、これは彼だけが悪いと思いますか?
こんな化け物を作るのは、貴方達の人を見下す心なのかもしれません。
「やっと、やっとここまで来た」
長い間育ててきた。
それももうすぐ芽吹きの時だ。
「ようやく報われる」
「あっ、咲きそうじゃん。ありがとう」
「え?」
大切に育てた俺の大事なもの。
時間をかけて、時間をかけて、大切に。
それがわずか3秒で奪われた。
「え?え?あの、それは大切な」
「私に貰われてあなたも嬉しいでしょ。良かったじゃん」
「そっ、そんなわけない」
「あんたは育てて嬉しい。私は楽して綺麗なものが貰えて嬉しい。win-winだね」
嬉しそうに、僕の大切なものを奪っていった。
……なんでだよ。
どうしてこんな目に。
「あぁやって、上澄みだけを遠慮なく盗んで行く人達をどう思う?」
「あ、あなたは?」
よく分からない人に話しかけられる。
その人は何処か不思議な存在だった。
「許せるわけない」
「ふふふ、そうだね。許せるわけが無い。だけどね、どうやらそうやって上澄みを遠慮なく盗んで行く人達は尊敬されて、しかも崇め奉られているらしいよ」
「なっ、なんでそんなこと!楽するやつが尊敬されるなんて」
「それが現実さ。どうおもう?君はどうする?」
「そんな現実、認めない、認められるものか」
涙が溢れて止まらない。悔しくてたまらない。
「……君はそれでも、恨まないんだね」
「恨んでるさ。恨んでるに決まってる。だけど、なんで、なんで僕は、それでも非常になれないんだ」
「……きっと、君のその強さは認められることは無いだろう。強いはずのその心は、弱者だと決めつけられ、勇気が無いと罵られる。ほんとに、人は浅はかな奴が多いね」
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそーーー。勇気がないから、動けないんじゃない。思いやりがあるから、攻撃できないんだ。思いやりなんてなかったら、簡単に攻撃できるのに、どうしてこんなに理不尽なんだよ。なんでこんな優しい心なんて用意したんだよ、ちきしょー、ちきしょー、ちきしょー」
「……ごめんね。優しい心を与えたばかりに。そして、愚かにも人を信じた私を許しておくれ。その優しさは、尊い存在になるはずだった。悪いのは私だ。そして、愚かな思考しかできない人間だよ。だが、そんなことを言っても、君には何も救いなんてないんだけれどね。本当にごめんね」
「ちきしょーーーーーー!!」
いつか、いつか報われてほしい。そう思う私は、きっと愚かな神なのだろう。
「あれからどれくらいの時が経っただろうか」
誰とも接することも無く、何十年という年月を独りで過ごしてきた。
寂しさというものは最初からなく、何故誰かと共にあろうとするのかが分からなかった。
きっと、それは寂しいことなのだろう。だが、それを理解することも無く、理解出来ることも無くここまできた。
「最後に、人と触れ合ったのは何時だったか」
自身の右手を眺めながら思いを馳せる。
どれだけ思考を繰り広げても、思い出すことができない。
そもそも、人と触れ合ったのだろうか?
触れ合ったとは思う。過去すぎて思い出すのも一苦労だ。
その時の温かさを思い返す。
「……」
人と触れ合う温かさ。確かにあったのかもしれない。
暖炉に手をかざす。
木々が弾ける光景に心と手が暖まる。
「暖かい。こっちの温かさの方が100倍心地いい。こんな考えしかならない俺は、きっと誰にも理解されないだろう。そして、一人でいて正解だった。誰も愛せないし、誰も愛してはくれないだろうから」
もし、もしもだ。こんな俺を受け入れる誰かがいたとしたら、誰かと共にあゆみ、独りが寂しいと感じたのだろうか?
「年かな。こんな事、考えても仕方ないのにな。いや、これが寂しさを感じているということか?ははは。柄にもないな。ありえない。だとしたら、こんなにひとりが楽しいはずがない」
だとしても、やはりこんな自分でも受け入れてくれる人がいたのなら、何かが変わっていたのかもしれない。
時間よ止まれ!!
……
……
……
そしてそのものは永遠に時が止まり動かなくなった