「誰かしら?」
その言葉に僕の心は凍りついた。
目の前の彼女は心底不思議そうにこちらを見ている。
まるで、本当に初めて会ったかのように。
「ほっ、本当にわからないの?」
「えぇ、初めまして、ですよね」
僕は、彼女に家が1軒建つほどの額を貢いでいる。
美味しいものも、プレゼントも、何もかも彼女の為に。
「はっ、はは」
「なっ、なに、気持ち悪い笑みを浮かべて。警察を呼びますよ」
きっと、きっと彼女は記憶喪失なのだ。そうに違いない。
「どうしたよ?」
「あっ、ハニー。よく分からないけれど、この人が付き纏ってくるの」
「あん?この野郎気持ち悪いんだよ」
左からの衝撃に思わず吹っ飛ぶ。
痛い。
殴られたのだ。
「あれ?こいつ、お前がキャバしてた時の太客じゃね?」
「あらそうなの?私、ブサイクは覚える気が無いから分からないわ」
「ギャハハ。めっちゃくちゃ貢がしてただろ。お前クズだわ」
「もう、やめてよ」
「まぁ、お前は綺麗だからな。全てが許される」
「えへへ、そうよね」
僕は、口から血を垂れ流しながら、もう立つ気力もない。
2人はいつの間にかいなくなっていた。
「……」
人間、中身が大事。うん、中身が大事だ。
中身を見抜けなかった僕が悪い。それに、外見で選んでいたのは僕だってそうじゃないか。
「は、ははは、あはは」
……嘘だ。本当は気づいてる。
見た目で選ばなくても、見た目で選んでも、どっちにしろ同じ目にあってきた。
中身を重視しようが外見を重視しようが、どっちでも同じ目にあってきた。
中身なんて、ほんとに人は見てるのかな。
「……外見が悪いやつは、ATMとしてしか生きる道がないのかな」
生きてればいいことがある。真面目にコツコツ。必死に生きなさい。
本当に?
「……あはは、そうか、そうだよね」
ATMとしてしか役に立てないのだから。ATMとしてしか見られてないのだから。
「ATMとして、働かせるために、そうやって洗脳するわけだ。あはは、あははははははははは」
そうか、ATMが欲しいのか。
だから、真面目に働かないと周りは弾圧してくるのか。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハ」
新聞の一面に、無差別殺傷事件の記事が出る。
さぁ、貴方は、これは彼だけが悪いと思いますか?
こんな化け物を作るのは、貴方達の人を見下す心なのかもしれません。
3/2/2025, 11:01:34 AM