みれい

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5/9/2023, 8:26:35 AM

お題「一年後」


 政府の特務機関から連絡を受けたときは、二重の「まさか」という気持ちでいっぱいだった。一年後に世界が滅びてしまうことと、それを食い止めるためのメンバーに俺が選ばれたことだ。

半信半疑のままミーティングに参加し、他のメンバーと与えられたミッションをこなす日々。それなりに達成感や使命感は感じるものの、本当に世界が滅びてしまうとはとても思えなかった。

 そうやって毎日を過ごして、いよいよ明日、一年後を迎えることになった。今日は終日基地に詰めていなければならない。色んなことを考えながら走って向かっていた俺はよく前を見ておらず、街中の曲がり角で思わず少女とぶつかってしまった。

 「ご、ごめんなさい。急いでたもので」
 「いえ、わたしのほうこそ、不注意で」

 転んだ少女を助け起こすと、どうやら怪我などは無いようだ。無事を確認すると、再び走り出した。あの子も明日はどうなっているか分からないけど、元気にしてるといいな。

※5/6のお題もよかったら見てください
https://kaku-app.web.app/p/fuRPMWu7tD72aNuoKqpX

5/7/2023, 1:24:09 PM

お題「初恋の日」



 「それでは次の話題です。今日は初恋の日ということで、全国各所で街コン等の恋愛イベントが開催され、恋人探しに勤しむ人々の姿が見られました・・・」

 テレビから流れてくる下らない情報に眉をひそめた。誰が初恋の日なんて制定したんだ、本人には悪気はないんだろうけどわざわざ御用意いただく必要なんてないだろう。恋愛という関係を押し付けやがって、勝手なお世話というやつだ。

 そもそも私には恋とか愛とかは縁がない。言い寄ってくるやつもたまにはいるけど、さっぱり興味が持てない。誰かを好きになるとか、どうやって出来るんだ?

 そういう時は決まって、幼くしてこの世を去った友達のことを思い出す。あいつと遊んでた時は本当に楽しかった。いつも一緒で、いたずらをして立たされたり、夜更けに学校に忍び込んだり、河原で他愛もないことを喋ったり、何をしていても心地よかった。

それがもう出来ないのは残念だけど。あいつは恋愛とか知らないまま逝ってしまったんだぞ……

5/6/2023, 10:45:45 AM

お題
「明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。」


 教室で友人がそんな他愛もない問いかけをしてきたので考えてみたけど、なくなるんだったら何を願っても同じじゃない?って話になった。どうせなら痛かったり苦しかったりしないといいよねと言うと「それな」と合わせてきて話はおしまいになった。

 帰り道、一人になってから小さく溜息をついた。明日世界がなくなるのは本当なんだよ。だって私がなくしちゃうんだから。私に与えられた唯一の才能。気が付いたのは少し前になる。ある日夢をみて、いわゆる御告げみたいな感じで知ることになった。どういう原理かは分からないけど、前の日のうちに心に決めると、次の日に世界がなくなるってわけ。

いつ世界をなくしてしまうか、そもそもなくさないでおくかは、私次第だ。私だってやりたいことはあるし長生きしたいからなくしてしまうことは本意ではない。出来るだけ引っ張って、もう何もかも気が済んだらなくしてしまってもいいかもしれない。もし結婚して子どもが出来て孫とかも出来たら、なくさないほうが良いのだろうとも思う。

 そもそも世界をなくしてしまうだなんて大変な才能だと思うんだけど、みんなはどうなんだろう。足が速いとかピアノが上手いとか、そういう才能と同列にしてしまっていいものなのか。小さな頃から何をやっても下手くそで、運動も苦手だしドジだし忘れっぽい私には何の才能もないと思っていたけれど、まさかこんな才能があるなんてね。

 色々と悩んだ挙げ句、せっかくの才能を使わない手はないと思って、今朝曲がり角で男の子とぶつかって転んだ時に心に決めた。

5/5/2023, 2:26:33 PM

お題
「君と出逢ってから、私は・・・」


 君と出逢ってから、私は・・・おそらく幸せなんだろう。生まれも知らぬ、育ちも知らぬ。気がついたら独りで居た。身寄りもなく、一人で生きて一人で死んでいくものとばかり思っていた。その日暮らしの日々を送り、当てもなく彷徨っていたところで君と出逢ったのは単なる偶然であろう。

 君に付いていったのは、いわゆる胃袋を掴まれたというやつだ。何も君の人となりや容姿が気になったわけではない。うまいものを食わせてくれるというのに、乗らない話はない。ましてや今さら何が待ち受けていようと構わない我が身だ。

君の住処は清潔で暖かだった。そして良い匂いのする食事と、柔らかな布団。流浪の毎日ですっかり汚れた私の身繕いまでしてくれて、すっかり心を許してしまった。こんな暮らしが続くなら、天涯孤独の看板を下ろしてやらなくもない。そうして彼女と私の共同生活が始まった。

 彼女が不在の時は、部屋で気ままに過ごしていた。仕事があるわけでもなく、街に馴染みたいとも思わない。ここだけが私の城だ。特に気に入っているのは彼女がよく使う椅子なのだが、座って寛いでいると帰宅した彼女に「また勝手に座って!」とたしなめられる。その顔は決して怒っている風ではなく、やれやれと言った感じだ。無理もない、身なりを整えた私は自分で言うのも何だがイケメンだからな。

 一人で流離っていた時は何か崇高な野望があった気もするが、炬燵で丸くなっているとすっかり忘れてしまった。そうか、これが幸せというやつか。

5/4/2023, 11:25:08 AM

今日のお題
「大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?」


走りに走って限界に達した私は倒れ込むように大地に寝転んだ。見上げた空には雲が流れていく。息も絶え絶えになった私は、疲れ切って目も開けていられなくなった。朦朧とした脳裏には、昔の作家が書いた友人を助けるために長い距離を走った男の話が何故か思い浮かんだ。結局彼は間に合ったんだっけ。私はどうにも間に合いそうにない。一歩でも前に進まねばとは思うが、身体が言うことを聞かない。私に掛けられた期待、仲間たちからの信頼、その全てがもう……

締切が目前に迫る原稿を書いていて行き詰まった私は、つい机でうとうとしてしまって、そんな話を夢に観ていた。

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