Kiss
幼なじみは同い歳だけど嫌に大人びた子だった。特に女の子の扱いが上手くて、みんなあいつのことが好きになる。
私だって、好きだった。
幼なじみだからこそ余計に近くて、遠く感じる。
高校生になった頃、あまりにもモテるから
「ねぇ、そろそろ彼女でも作って落ち着いたら?…めぼしい子いないなら、私の事、盾に使ってもいいし。……な、なーんて。」
ついついこぼれてしまった。
私は恥ずかしくてあいつの顔を見れなくて俯いた。
「そうだな。…でも、お前を盾に使うなんてできないよ。」
やっぱり、気になってる子はいるんだな。嫌なのに目から涙がこぼれそうになって上を向いた。
あいつが私の目の前に立って上から眺めていてバチッと目が合ってしまった。
「盾とか冗談とかじゃなくて…正式に付き合うのはどう?」
「え!えぇ!あ、え!?いいの!?え!」
あいつはクスリと笑って私の頬を優しく包むと額にキスした。
1000年先も
「家の庭にある桜の木。あれは俺が産まれた時にはもう既に綺麗な花を咲かせていた。
俺が死んだ後も、この家とこの桜の木をどうか、守り続けてくれ。」
亡き父の遺言通り僕はこの家とこの桜の木を継いだ。まだ100年にも満たないけれど、僕は息子に同じように話してこの家とこの桜の木を継いでいく。
そして、1000年先の未来でもこの桜が変わらず咲き誇ることを祈って僕は永遠の眠りについた。
勿忘草(わすれなぐさ)
「Forget me not.」
米国人の彼が最後に私にくれた言葉。
先の大戦から20年以上の時が経って、米国人は一般人として日本に定住していた。
当時は大戦の名残から未だに敵対視する日本人が多かったが、そんな中で私は彼に出会った。
言葉は全くわからないけれど、身振り手振りで必死に気持ちを伝えようとしてくる彼に私は次第に惹かれていった。
ある日、彼は私に小さくて可愛らしい青い花を見せてくれた。
「これは?なんて言う花?」
「Forget me not. …ワタシ、ワスレナイ、ホシイ。Looks like you. It's so cute.」
「ほげとみーのっと?すごく可愛らしい花ね。
私を忘れないで、って意味なの?素敵。」
彼の1番好きな花だと、満面の笑顔でとても嬉しそうに教えてくれた。
それから数日後、軍人だった彼は本国でまた戦争の兆しがあり、米国に戻るよう通達が届いた。
「…必ず、また日本に戻ってきてね。」
そう言うと、彼は今にも泣きそうな顔をして私を力強く抱きしめた。
何となく、これで彼と最後になるんじゃないかななんて察してしまった。
彼の肩口を濡らしながら私もギュッと抱きしめ返すと、彼は
「…Forget me not.」
とだけ呟いて、米国へ帰った。
ブランコ
大好きな親戚のお兄ちゃん。
優しくてなんでもできるかっこいいお兄ちゃん。
よく公園に行ってブランコで遊んでくれた。
1人で乗れなくて、うまく漕げない私の背中を優しく押してくれた。
でも親族のせいで、私とお兄ちゃんは疎遠になった。
幼かった私も社会人になってブランコも1人で漕げるようになった。
もう、お兄ちゃんがいなくても大丈夫…お兄ちゃんとの記憶、存在すら薄れていったある日。
職場の病院にお兄ちゃんは運ばれてきた。
交通事故だった。
私は事務員だったから何もできないで、ただただ無事に手術が終わるのを願っていた。
数時間の緊急手術が無事に終わり、お兄ちゃんは病棟へ移されて、隙をみて私はお兄ちゃんの元へ行った。
安静にして眠っていた。チラッと左手の薬指に指輪が見えた。
あぁ…お兄ちゃん、結婚しちゃったんだ。
ずっと、ずっと昔から私がお兄ちゃんと結婚したかったのに、他のひとに取られちゃった。
お兄ちゃんに再会できた嬉しさと他人に取られた恨みで私の心はブランコのように揺れ動いていた。
旅路の果てに
生まれた時に僕たちの旅は始まった。
色んなまわり道、危険や罠を乗り越えて、たくさん傷つきながらも旅は続いていく。
この旅路の果てには肉体としての死が待っているだけかもしれない。
けど、最期に振り返った時に自分というたったひとりのちっぽけな人間がいた軌跡を残せたら、旅路の果てに笑顔になれたら、僕はそれで満足だ。
まだまだ長い旅は続くから、休みながらゆっくり歩みを進めていきたい。