勿忘草(わすれなぐさ)
「Forget me not.」
米国人の彼が最後に私にくれた言葉。
先の大戦から20年以上の時が経って、米国人は一般人として日本に定住していた。
当時は大戦の名残から未だに敵対視する日本人が多かったが、そんな中で私は彼に出会った。
言葉は全くわからないけれど、身振り手振りで必死に気持ちを伝えようとしてくる彼に私は次第に惹かれていった。
ある日、彼は私に小さくて可愛らしい青い花を見せてくれた。
「これは?なんて言う花?」
「Forget me not. …ワタシ、ワスレナイ、ホシイ。Looks like you. It's so cute.」
「ほげとみーのっと?すごく可愛らしい花ね。
私を忘れないで、って意味なの?素敵。」
彼の1番好きな花だと、満面の笑顔でとても嬉しそうに教えてくれた。
それから数日後、軍人だった彼は本国でまた戦争の兆しがあり、米国に戻るよう通達が届いた。
「…必ず、また日本に戻ってきてね。」
そう言うと、彼は今にも泣きそうな顔をして私を力強く抱きしめた。
何となく、これで彼と最後になるんじゃないかななんて察してしまった。
彼の肩口を濡らしながら私もギュッと抱きしめ返すと、彼は
「…Forget me not.」
とだけ呟いて、米国へ帰った。
ブランコ
大好きな親戚のお兄ちゃん。
優しくてなんでもできるかっこいいお兄ちゃん。
よく公園に行ってブランコで遊んでくれた。
1人で乗れなくて、うまく漕げない私の背中を優しく押してくれた。
でも親族のせいで、私とお兄ちゃんは疎遠になった。
幼かった私も社会人になってブランコも1人で漕げるようになった。
もう、お兄ちゃんがいなくても大丈夫…お兄ちゃんとの記憶、存在すら薄れていったある日。
職場の病院にお兄ちゃんは運ばれてきた。
交通事故だった。
私は事務員だったから何もできないで、ただただ無事に手術が終わるのを願っていた。
数時間の緊急手術が無事に終わり、お兄ちゃんは病棟へ移されて、隙をみて私はお兄ちゃんの元へ行った。
安静にして眠っていた。チラッと左手の薬指に指輪が見えた。
あぁ…お兄ちゃん、結婚しちゃったんだ。
ずっと、ずっと昔から私がお兄ちゃんと結婚したかったのに、他のひとに取られちゃった。
お兄ちゃんに再会できた嬉しさと他人に取られた恨みで私の心はブランコのように揺れ動いていた。
旅路の果てに
生まれた時に僕たちの旅は始まった。
色んなまわり道、危険や罠を乗り越えて、たくさん傷つきながらも旅は続いていく。
この旅路の果てには肉体としての死が待っているだけかもしれない。
けど、最期に振り返った時に自分というたったひとりのちっぽけな人間がいた軌跡を残せたら、旅路の果てに笑顔になれたら、僕はそれで満足だ。
まだまだ長い旅は続くから、休みながらゆっくり歩みを進めていきたい。
あなたに届けたい
この世には色んな人間がいる。
そんな無数にいる人間の中で、
出会って深い絆を結んだ唯一無二の友達を大切にして欲しい。
出会ってお互いに惹かれて好きになった恋人を大切にして欲しい。
大切に育てて優しく見守ってくれる親を。
時に厳しく時に温かく導いてくれた恩師を。
どんな出会いも当たり前なんかじゃなくて、無数の中から、たまたま巡り会った奇跡の出会いだから。
I LOVE…
「付き合おうか。」彼は告白の時でさえ「好き」とは言ってくれなかった。
付き合ってるけど、なんだか不安で、いつか捨てられてしまうのではなんて最悪な想像さえしてしまう。
「すごく大事な話がある。」なんて言われて私はきっとその時が来たんだと思い心臓がキュッと苦しくなる。
お店の窓から彼の後ろ姿を覗いては、ため息を吐いて隠れて店内に入る勇気がでないでいた。
お店のドアが開いて彼が出てきた。
「見つけた。寒いから早く中に入っておいで。」
最後まで優しく接するなんてズルい。
「…。は、話って。」
早く終わりたくて単刀直入に尋ねると彼はいつになく真剣な顔をして真っ直ぐ私の目を見つめる。
「…君のことが好きだ……愛してる。僕と結婚してください。」
「えっ!?」
「ん?」
お互い驚いた。
彼の口から初めて「好きだ」と、しかも「愛してる」まで。私は無意識のうちに差し出された彼の手を握っていた。涙が出そうで声がうわずる。
「私もっ、あなたが大好きです!愛してます!よろしくお願い、します。」