27(ツナ)

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11/26/2025, 11:02:36 AM

時を繋ぐ糸

糸電話が置いてある。
広い公園の小さな休憩所のテーブルの上にぽつんと。
糸の先はずーっと向こうにあるようで、どこにつながっているのか分からない。
好奇心に負けた僕は糸電話を取ってみる。
「も、もしもーし。誰かいますか?」
受話器を耳に当ててみた。
「……。」
「はっ、やっぱイタズラか。てかどこに繋がってんだ?これ。」
なんとなく反対側が気になって糸電話の糸の繋がる先を目指して歩いた。
10分くらい歩いたところでまた、公園の休憩所を見つけた、そこのテーブルに糸電話のもう片方が同じように置かれていた。
なんとなく、また受話器を耳に当ててみた。
「……。」
そりゃ、なんも聞こえないわな。
「…も、もしもーし。誰かいますか?」
ほっといて帰ろうとした時、そう、受話器から声が聞こえた。返事しようかと迷っていると続けて
「はっ、やっぱイタズラか。てかどこに繋がってんだ?これ。」と、聞こえてきた。

待てよ。このセリフ、さっき僕が言ったセリフと一字一句同じだ。
好奇心と恐怖心がせめぎ合ってる。
僕はその場で"10分前の僕"を待つことにした。

11/25/2025, 11:05:36 AM

落ち葉の道

ザッザッザッ、ザッザッザッ。
赤、黄、橙。
カラフルな絨毯は楽しい音を奏でる。
ザッザッ、ガサガサ、カサカサ、ザクザク。
落ち葉の道で演奏会。

11/24/2025, 12:12:05 PM

君が隠した鍵

鍵がない。
どこに落とした?いや、置き忘れたか?
まいったな。
鍵がないと、入れないじゃないか。

振り向くと、君が立っていた。
ニコニコしながら立っていた。
あぁ、君が隠したんだな。
僕の心の鍵。

鍵を取られた僕は君に囚われてしまった。
もう、君から逃れることはできない。


11/23/2025, 10:56:45 AM

手放した時間

現代を生きる私たちは常に時間に縛られ、時間に監視され、無意識のうちに時間に従っている。
まるで、『時間』の奴隷だ。

この世に電気や科学がなかった頃、人は時間と共存していた。
太陽が昇ると同じく目覚め、働き、沈んで月が現れれば休息を取る。
時計という『時間』が目に見える物が創り出された時から私たちは知らないうちに『時間』の支配下に置かれることになった。

もし、今の私たちが昔のように『時間』を手放したらどうなるのだろうか?
きっと、既に支配されてしまった私たちは見えなくなってもなお、時間に追われてしまうのだろか?
眠気が襲ってきて、考えるのも億劫になり、ノートパソコンを閉じて私は時計に目をやった。
「あ。もうこんな時間。眠らなきゃ。」

11/22/2025, 11:50:53 AM

紅の記憶

俺は物心ついた頃から独りだった。
母親はいたが夜の仕事でほぼ家にはいない、
父親は顔も名前も知らない。

高校を卒業してしばらく経ったある日、
『卒業おめでとう。最低限の面倒は見たから、あとは自由に生きてね。さよなら。』
置き手紙を残して母親は姿を消した。
1人には慣れていたから特に不自由はなく、むしろ気楽だった。
けど、不意に母親の記憶が体の底から湧いて出てくる時がある。

おぞましい記憶だ。
あれは中坊の頃、母親がひどく酔って帰ってきた明け方。
バンッと大きな音を立てて閉められた玄関の音で俺は目が覚めた。
「……おかえり、酔ってん───」
玄関に向かうと母親が勢いよく俺を押し倒した。
俺の顔を鷲掴みにして化粧ポーチから口紅を取り出すと、まるで血液のような紅色のそれを俺の唇に何度も重ねて塗った。
「あはっ、あははは!あははは!綺麗〜。男のくせに、女の私より。あははは!」
俺は恐怖と絶望と混乱で、馬乗りなる母親を思い切り突き飛ばして家を飛び出した。
それから俺は母親を避けるようになった。
居なくなって清々したはずなのに、余計にあの紅の記憶はまとわりついてくる。

嫌な記憶のはずなのに、忘れたい過去のはずなのに俺は囚われ続ける。
あの記憶を思い出す度に、あの日と同じ色の口紅を、自分の唇に塗り重ねる。
あの日、ほんの少しだけ感じた扇情的な気分は、どうしても消し去ることができなかった。

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