遠い足音
私は学園のいわゆるマドンナ的な立場だったと思う。
毎日、色んな男の子たちが代わる代わる私に声をかけてくる、私も悪い気はしなかった。
だからこそ、知らない間に私への憎悪が無数に産まれたのだろう。
3年生の卒業間近のある日、教室棟と管理棟を繋ぐ3階の渡り廊下で私は誰かに突き落とされた。
落ちている間は本当にスローモーションのようで逆さまに写る世界が摩訶不思議で面白くて、きっと私は笑っていた。
落ちたあとの事はあまり覚えていないが。
目の前が真っ暗になって何も見えなくて、微かに耳だけが聞こえていた。近くに誰かがいる、けれどその誰かは「クスッ」と笑ってどこかへ去っていった。
遠くなる足音を聞きながら私の意識は完全に消えていった。
秋の訪れ
朝起きて窓を開けると、さらりと涼しい風が素肌を撫でる。
昼前にスーパーへ買い物に出掛けると、店頭には新米、秋刀魚、栗、かぼちゃ…秋の味覚がめじろ押し。
午後、窓辺で読書をしていると外に黄金色のススキがはためくのが見えた。
夕方、日の入りが早くなり辺りが薄暗くなると、どこからともなく鈴虫の声が聞こえてくる。
夜、満月の灯りが部屋を照らす。
月明かりをぼんやりと眺めながら鈴虫やコオロギの声をBGMに眠りにつく。
ごく平凡な一日を通して私は秋の訪れを感じる。
旅は続く
(※9/15 「センチメンタル・ジャーニー」の続き)
いよいよ、私による私のための私のセンチメンタル・ジャーニーが始まった。
息巻いて始まったひとり傷心旅は、実際は寂しくて気分転換になってるのかなってないのかよく分からない。
目当てのスイーツのお店に着いたが、周りはカップルや家族連れだらけで余計に病む。
テラス席でひとりポツネンと景色を眺めながらスイーツを食べていると、突然声をかけられた。
「あの、突然すみません。この席、後で誰か来ますか?…自分、一人旅でちょっと歩き疲れちゃって甘いの食べて休憩しようかと思て、椅子余ってたら貸してもらってもいいですか?店内満席で…。」
突然で驚いたが、私と同じ一人旅の人と出会うなんて凄い偶然で思い切って誘ってみた。
「どうぞどうぞ!私もひとりで旅してて!…もし良かったら、少し一緒に回りませんか?恥ずかしながら1人だと寂しくて。」
彼は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になって快く私の提案を受け入れてくれた。
こんな旅、辞めればよかったと思ってたが、こんな出会いがあるならひとり旅も悪くないな。
私のセンチメンタル・ジャーニーはまだ続くみたいだ。
モノクロ
カラフルなのは見ていて鬱陶しくてどうしても好きになれない。
モノクロが好き。白と黒、実にシンプル。
持ち物から洋服、家具に至るまで私の生活は全てがモノクロに包まれている。
そんな日々を送るある時、公園を散歩していると小さな男の子が駆け寄って来た。
子供は好きでも嫌いでもなかった、ただ突拍子もないから怖いだけで。
「はい、これあげる!」
その子は手にした一輪の花を私に手渡すとスタタタとどこかへ駆けていってしまった。
手持ち無沙汰に一輪の花を持ったまま公園にひとり立ち尽くした。
しばらく呆然としたが、無性に湧き上がる嬉しさに口角が少し上がる。
モノクロだった私の部屋にピンク色のダリアの花が飾られた。
彩りがあるのも、悪くない。
永遠なんて、ないけれど
永遠なんてない。
人は産まれたらみんな死ぬ。
命は平等で、誰にでも終わりは来る。
幸せはいつまでも続かないかもしれない。
永遠なんてない。
永遠なんて、ないけれど
ないからこそ、限りあるこの人生をかけて君に永遠の愛を誓う。