27(ツナ)

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9/27/2025, 10:39:17 AM

涙の理由

学生の頃、少し変わった友人がいた。
一緒に映画を見に行った時、私は感動のあまり涙を流した。
映画が終わると、友人から「涙の味は何味?」と意味不明な質問をされた。
映画の余韻に浸っていたかったのに、熱がサーッと冷めていった。
「あ〜ぁ今、余韻に浸ってた所なのに。涙の味?…涙って味あんの?」
「あはは、ごめんごめん。涙って味あるよ?味でその涙の理由がわかるんだ。どう?」
唇の横を流れた涙の跡を舌で探ると確かに、微かに甘い気がした。

その日以来、涙の味が頭の片隅に記憶された。
両親が喧嘩して母が涙を流した時。
彼女が別れ話を切り出して泣き始めた時。
上司に叱られて涙が流れた時。
涙の味から涙の理由を探るのが癖になっていった。

そんなある時、僕に涙の味を教えてくれた友人が自ら命を絶ってこの世から去った。
全く現実味がないまま、彼の葬式に参列した。
棺の中には、僕に得意げに涙の味を語ってくれた彼が静かに目を閉じて眠っていた。
僕の目から久しぶりに涙が溢れてきた。
その味は今までにないくらい塩辛い涙だった。
塩辛い涙の理由───は嘘泣き。

9/26/2025, 10:41:49 AM

コーヒーが冷めないうちに

たまたまカフェで見かけた彼女。
カップルや友達と同士が多い店内でカウンターでひとり、コーヒーを楽しんでいた。
かく言う僕も珍しいひとり客で、彼女から椅子2つ分開けた隣に座って、コーヒーをひと口。

外の景色を眺めていたその時、不意に彼女と目が合う。

彼女と目が会った瞬間、コーヒーが冷めないうちに僕は恋に落ちてしまったみたいだ。

椅子2つ分あった君と僕の距離が1席ずつ縮まった。

9/25/2025, 10:44:49 AM

パラレルワールド

突然、目の前に自分が現れた。
パラレルワールドから来たらしい。
顔や背格好はもちろん鏡写しのようで、自分にしか理解できない質問を完璧に答えてくる。
正真正銘、自分自身だった。

ありえない状況なのに案外、冷静でいられる自分に驚いた。

「ってか、パラレルワールドってなんですか?」
なぜか自分自身に敬語を使ってしまい半笑いで問う。
『え、あー、なんか、同じ時間で進んでる別世界って感じ?ネットに書いてあった。なんか知らんけど、朝起きたら知らない所で寝てて、そんで自分が横で寝てたから最初、幽体離脱だと思ったんよね。ウケるよね。』
と言いつつ、目がニコリとも笑ってない。そんなところもそっくりだ。

「そもそも、なんでこっちの世界?に来たんすか?なんか、原因とか。」
『あ〜それなんだけど、全くわからんくて仮説立てた。』
「仮説…。」
『うん。ズバリ!バグだな!ゲームとかでよくある。』
俺は目の前にいるあまりにもアホな自分を思わず殴った……と思ったけれど、拳は宙を殴っていた。「あ、帰ったな。」そう悟り俺は何事も無かったように日常に戻った。

9/24/2025, 11:29:29 AM

時計の針が重なって
(※9/23 「僕と一緒に」続き)

今日はいよいよ『‎^_^』の開催日。
時間と場所を再度確認して、手紙を持って目的地へ向かった。
時刻は23:55、サイトには『時計の針が重なって日付が変わった時、お迎えに行きます。』と書いてあった。
きっと、もうすぐ迎えの人が来る。

後ろから人の気配がして振り返ろうとした瞬間、首元に強い衝撃と息苦しさを感じ、プツンと意識が途切れた。

***

1週間前から、友達と連絡が取れないんです。
電話も繋がらなくて、どこにもいない…行方不明なんです。
それまでは1日に1通は何かしら連絡をとってたんですけど、突然なんの音沙汰もなくなってしまって…。
あ、ただ連絡が途切れる最後のやり取りがいつもと違くて、なんかおかしくて。

あ、ええっとコレです。『‎^_^』この絵文字を何回も送ってきたんです。何を聞いても返事はなくて、この絵文字だけ。
どうか、お願いします。大切な友達なんです、必ず探し出してください。

9/23/2025, 12:03:15 PM

僕と一緒に

『遊びましょう。僕と一緒に。』

それは封筒の中に入っていた。
宛先は無かった。
代わりにそのひと言と、下にQRコードがあった。
その時の私は仕事で疲れていて判断力が鈍っていたのだろう。
すぐに携帯を取りだしてQRコードを読み込んだ、すると地図アプリが開かれ、ある場所がピン留めされていた。

URLが載っていたので開くとまた別のサイトに飛んだ。
『‎^_^』サイトのタイトルは絵文字のみ。
スクロールしていくと、手紙に書いてあった同じひと言と"開催日時"が載っていた。
きっとこの日時にこの場所に来いということなのだろうとすぐに察して、私はなんの疑いもなく、準備を始めた。
まるで何かに操られているかのように。

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