27(ツナ)

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涙の理由

学生の頃、少し変わった友人がいた。
一緒に映画を見に行った時、私は感動のあまり涙を流した。
映画が終わると、友人から「涙の味は何味?」と意味不明な質問をされた。
映画の余韻に浸っていたかったのに、熱がサーッと冷めていった。
「あ〜ぁ今、余韻に浸ってた所なのに。涙の味?…涙って味あんの?」
「あはは、ごめんごめん。涙って味あるよ?味でその涙の理由がわかるんだ。どう?」
唇の横を流れた涙の跡を舌で探ると確かに、微かに甘い気がした。

その日以来、涙の味が頭の片隅に記憶された。
両親が喧嘩して母が涙を流した時。
彼女が別れ話を切り出して泣き始めた時。
上司に叱られて涙が流れた時。
涙の味から涙の理由を探るのが癖になっていった。

そんなある時、僕に涙の味を教えてくれた友人が自ら命を絶ってこの世から去った。
全く現実味がないまま、彼の葬式に参列した。
棺の中には、僕に得意げに涙の味を語ってくれた彼が静かに目を閉じて眠っていた。
僕の目から久しぶりに涙が溢れてきた。
その味は今までにないくらい塩辛い涙だった。
塩辛い涙の理由───は嘘泣き。

9/27/2025, 10:39:17 AM