「風鈴の音」
「チリンチリーン、チリンチリーン」
風に揺られた風鈴の爽やかな音が聞こえてくる。
隣の家には年配のおじいさんが1人で暮らしていた。
おじいさんは毎年夏頃になると風鈴を軒先に出す。僕にとってあの風鈴の音はいつの間にか夏の風物詩のひとつになっていた。
今年の夏、ついに風鈴の音は聞こえなかった。
おじいさんは夏前に天国へ旅立ってしまったのだ。
風鈴の音が聞こえないと無性に寂しく感じる。
僕は雑貨屋に行って風鈴を買った。
「チリンチリーン、チリンチリーン」
おじいさんがいた頃とかわらない風鈴の音色に今日も癒される。
「心だけ、逃避行」
午後の授業はどうしても眠くなる。
意識が半分遠のいていき、変な浮遊感のままグラウンドをぼーっと眺める。
すると、まるで目を開けたまま夢を見ているような不思議な感覚になる。
体は教室にあるけど、心はグラウンドの方へ逃避行している。
所謂、白昼夢というやつだ。
僕は今日もこうして体を置き去りにして、心だけで夢の世界へ逃避行する。
「冒険」
いくつになっても冒険はできるよ。
だって、新しいことにチャレンジすること=冒険だから。
年齢とか性別とか関係ない。
新しいことにチャレンジするみんなが冒険者だ。
君は?この世界でどんな冒険をしてみる?
「届いて.....」
引っ込み思案な私は今日も彼に想いを伝えられなかった。
「あなたの事が好きなこの気持ち、届いて、届いて、届いて、届いて、届いて……。」
誰もいない放課後の屋上でひとり小さく叫ぶ。
「そんなんじゃ届かないよ〜。」
誰かの声にハッとして振り返ると、そこには腕組みして出入口に仁王立ちする金髪の派手なギャルがいた。
「ひぁ!」
思わず変な声が出る。
「な、人をバケモノみたいに…失礼な。」
「あっごめんなさいごめんなさい!ちがくて、びっくりして…って、私の独り言、聞こえてましたよね?」
「ん?聞こえてたよーん。あんた好きなコいるでしょ?でも、怖くて好きって言えないんだ?…でもさ、そんなんじゃいつまで経っても何も進まないし何も起きないよ?怖いのはわかるけど生きてる今のうちしか、人を好きになったり人に好きって伝えたり、出来ないよ?ぜーったい後悔するよ!」
なぜか初対面の私なんかの背中を押して真剣にアドバイスをくれた。
「あっあの、何組ですか?名前は?」
「え?あたし3組の──。」
「───さん。ありがとう!なんか、好きって伝えられる気がしてきました。」
「大丈夫!あんたの想いはきっと届くよ。後悔しないように生きてね。そいじゃ!」
そう言うとギャルのあの子はクルッと背を向けて去って行った。
後日、彼に想いを伝えて付き合うことができた。お礼を言いに彼女を尋ねて3組に行った。
しかし、
「あのっ、人を呼んで欲しくて。えっと、名前は…アレっ、な、名前、は。んーと。」
「え?名前、わかんないの?どんな子?」
「あ、ギャルの子です!金髪で派手なメイクの!」
「ギャル…?うちのクラスに金髪のギャルなんて一人もいないけど?なんか間違えてるんじゃない?」
クラスの中を見渡しても彼女は見つからなかった。聞いたはずの名前もなぜだか記憶にモヤがかかったように思い出せなかった。
彼女は一体……?
何としても一言お礼が言いたいのに、あの日以来、彼女は幻のように跡形もなく消えてしまった。
「あの日の景色」
「人の一生なんてあっという間に過ぎていくのよ、だから日々自分の目で見た景色を大切にして生きてね。」
母の口癖だった。
子供の頃は意味を理解せずに「うん。」と頷いていたけど、今更になってその通りだなと感じる。
今まで行った場所や出会った人達の事を思い出しては残り僅かな人生に思いを馳せる。
100歳まで生きられる世の中と言っても途中で事故や病気に遭うこともある。
私は不運にも病気になってしまった。
それから毎日、記憶を辿って過去の景色を懐かしんでいた。
あの日はなんとも思っていなかった何気ない日常の景色が今では全てが尊い宝物のように思える。
だから、どうか皆も1度でもいいから、携帯から少しだけ目を離して日々の何気ない景色を記憶に刻むようしっかり自分の目で見つめて欲しい。
人生の最後の時、あの日のあの景色を思い出せるように。