「届いて.....」
引っ込み思案な私は今日も彼に想いを伝えられなかった。
「あなたの事が好きなこの気持ち、届いて、届いて、届いて、届いて、届いて……。」
誰もいない放課後の屋上でひとり小さく叫ぶ。
「そんなんじゃ届かないよ〜。」
誰かの声にハッとして振り返ると、そこには腕組みして出入口に仁王立ちする金髪の派手なギャルがいた。
「ひぁ!」
思わず変な声が出る。
「な、人をバケモノみたいに…失礼な。」
「あっごめんなさいごめんなさい!ちがくて、びっくりして…って、私の独り言、聞こえてましたよね?」
「ん?聞こえてたよーん。あんた好きなコいるでしょ?でも、怖くて好きって言えないんだ?…でもさ、そんなんじゃいつまで経っても何も進まないし何も起きないよ?怖いのはわかるけど生きてる今のうちしか、人を好きになったり人に好きって伝えたり、出来ないよ?ぜーったい後悔するよ!」
なぜか初対面の私なんかの背中を押して真剣にアドバイスをくれた。
「あっあの、何組ですか?名前は?」
「え?あたし3組の──。」
「───さん。ありがとう!なんか、好きって伝えられる気がしてきました。」
「大丈夫!あんたの想いはきっと届くよ。後悔しないように生きてね。そいじゃ!」
そう言うとギャルのあの子はクルッと背を向けて去って行った。
後日、彼に想いを伝えて付き合うことができた。お礼を言いに彼女を尋ねて3組に行った。
しかし、
「あのっ、人を呼んで欲しくて。えっと、名前は…アレっ、な、名前、は。んーと。」
「え?名前、わかんないの?どんな子?」
「あ、ギャルの子です!金髪で派手なメイクの!」
「ギャル…?うちのクラスに金髪のギャルなんて一人もいないけど?なんか間違えてるんじゃない?」
クラスの中を見渡しても彼女は見つからなかった。聞いたはずの名前もなぜだか記憶にモヤがかかったように思い出せなかった。
彼女は一体……?
何としても一言お礼が言いたいのに、あの日以来、彼女は幻のように跡形もなく消えてしまった。
7/9/2025, 12:03:07 PM