27(ツナ)

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7/9/2025, 12:03:07 PM

「届いて.....」

引っ込み思案な私は今日も彼に想いを伝えられなかった。
「あなたの事が好きなこの気持ち、届いて、届いて、届いて、届いて、届いて……。」
誰もいない放課後の屋上でひとり小さく叫ぶ。
「そんなんじゃ届かないよ〜。」
誰かの声にハッとして振り返ると、そこには腕組みして出入口に仁王立ちする金髪の派手なギャルがいた。
「ひぁ!」
思わず変な声が出る。
「な、人をバケモノみたいに…失礼な。」
「あっごめんなさいごめんなさい!ちがくて、びっくりして…って、私の独り言、聞こえてましたよね?」
「ん?聞こえてたよーん。あんた好きなコいるでしょ?でも、怖くて好きって言えないんだ?…でもさ、そんなんじゃいつまで経っても何も進まないし何も起きないよ?怖いのはわかるけど生きてる今のうちしか、人を好きになったり人に好きって伝えたり、出来ないよ?ぜーったい後悔するよ!」
なぜか初対面の私なんかの背中を押して真剣にアドバイスをくれた。

「あっあの、何組ですか?名前は?」
「え?あたし3組の──。」
「───さん。ありがとう!なんか、好きって伝えられる気がしてきました。」
「大丈夫!あんたの想いはきっと届くよ。後悔しないように生きてね。そいじゃ!」
そう言うとギャルのあの子はクルッと背を向けて去って行った。

後日、彼に想いを伝えて付き合うことができた。お礼を言いに彼女を尋ねて3組に行った。
しかし、
「あのっ、人を呼んで欲しくて。えっと、名前は…アレっ、な、名前、は。んーと。」
「え?名前、わかんないの?どんな子?」
「あ、ギャルの子です!金髪で派手なメイクの!」
「ギャル…?うちのクラスに金髪のギャルなんて一人もいないけど?なんか間違えてるんじゃない?」
クラスの中を見渡しても彼女は見つからなかった。聞いたはずの名前もなぜだか記憶にモヤがかかったように思い出せなかった。
彼女は一体……?
何としても一言お礼が言いたいのに、あの日以来、彼女は幻のように跡形もなく消えてしまった。

7/8/2025, 10:49:17 AM

「あの日の景色」

「人の一生なんてあっという間に過ぎていくのよ、だから日々自分の目で見た景色を大切にして生きてね。」
母の口癖だった。
子供の頃は意味を理解せずに「うん。」と頷いていたけど、今更になってその通りだなと感じる。
今まで行った場所や出会った人達の事を思い出しては残り僅かな人生に思いを馳せる。
100歳まで生きられる世の中と言っても途中で事故や病気に遭うこともある。
私は不運にも病気になってしまった。

それから毎日、記憶を辿って過去の景色を懐かしんでいた。
あの日はなんとも思っていなかった何気ない日常の景色が今では全てが尊い宝物のように思える。

だから、どうか皆も1度でもいいから、携帯から少しだけ目を離して日々の何気ない景色を記憶に刻むようしっかり自分の目で見つめて欲しい。

人生の最後の時、あの日のあの景色を思い出せるように。

7/7/2025, 10:45:06 AM

「願い事」

「今日は七夕だね。何をお願いしたの?」
まだ5歳の息子は、覚えたばかりのひらがなで一生懸命短冊に願い事を書いていた。

「んー。内緒!」
願い事を書き終えるとサッと短冊を後ろに隠して口に手を当てて可愛くポーズを摂る。
その姿に私も思わず笑みがこぼれた。

「え〜内緒かぁ〜、気になるなぁ?」
「教えてほしぃ?」
「うん。どんなお願いしたのかなぁ?」
「んー、しょがないなぁ。はい!」
後ろに隠していた短冊を私に見せてくれた。
そこには、
『おりひめさんとひこぼしさんがスマホをかってもらえるように』と書いてあった。

「ねぇねぇ、なんでスマホ?」
「んー?だって、だってスマホがあればいつでもお話できるでしょ?」
「……た、確かに。」
我が息子ながら、さすが令和のZ世代だなぁと感じた。

7/6/2025, 10:19:21 AM

「空恋」

「好きだ」と言われて嬉しかったのは本当。

貴方の速い鼓動を聞いて胸がいっぱいになったのは本当。

私の手を強く握ってくれた時に感じた温もりは本当。

キスされて、驚いたけどドキドキしたのは本当。

抱き締められて安心したのは本当。

体に触れ合った時の温もりと幸福感は本当。

嘘だったのは私の貴方への気持ちだけだった。
私の気持ちはずっと空っぽだった。
私は貴方のことを最初から「好き」ではなかったみたい。

7/5/2025, 11:25:42 AM

「波音に耳を澄ませて」

海沿いの古民家に民宿を営んでいた俺のじいちゃんが、先月他界した。
最後まで元気に民宿をやっていた、そんなじいちゃんが遺言として、この民宿を俺に続けて欲しいと遺した。

じいちゃんが亡くなってしばらくお休みになっている民宿に着いた。周辺の庭や民家の中は綺麗に保たれていたが、民宿を再開させるためにあと1ヶ月くらい休むことにした。

山沿いの方に住んでいた俺にとって海沿いにあるこの古民家は環境が違くて新鮮だった。
朝から晩まで波音が聴こえる。
朝は太陽の光と穏やかな波音で目が覚めて夜は草木のざわめきと子守唄のような波音で眠る。
ずっとこうしてゆっくりしていたいと思いつつ、民宿の再開へ向けて毎日準備を進める。
「じいちゃん、俺にこの民宿を託してくれてありがとう、沢山の出会いを楽しみにこれから頑張るよ。見守っててな。」
海に向けて呟き、瞳を閉じて波音に耳を澄ませた。

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