27(ツナ)

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7/2/2025, 11:08:53 AM

「クリスタル」

顔合わせの後、彼の家へ招かれた。
男の人の家は初めてだったのでとても緊張したが、肩の力を解そうと彼は私に冗談なんかを言って和ませてくれた。

私を部屋に通すと忙しそうにどこかへ行ってしまった。と思ったらバタバタと戻ってきた。
「あ、あの、紅茶は…お好きですか?…最近英国から良い茶葉が入りまして。」
「えっ、あっ、ええ。紅茶はとても好きですけど。あ!私もお手伝いしますよ。」
「いいえいいえ!お客様ですから、どうぞ座って少々お待ちを。」
嬉々として動く彼の勢いに圧倒されて、その場で手持ち無沙汰に待つしか無かった。

しばらくすると、大きなお盆にティーセットとお茶請けを乗せてどこか危なっかしい足取りで彼が戻ってきた。
「お、お待たせしました。…あのっ実は、紅茶と一緒にティーポットも購入したんですが、貴女に是非、これを見て欲しくて。」
「…まあ!素敵!まるで宝石だわ。」
紅茶が入ったそのティーポットは綺麗な切子細工のクリスタルガラス製で、陽の光を受けてキラキラと輝きを放っていた。
「実は、貴女の為に特別に取り寄せてみました。……喜んでもらえたようで、本当に良かった。」
「生まれて初めてこんな綺麗な食器を見ました。私のために、ありがとう。私は貴方の妻になれて幸せです。」
首筋を軽く搔く仕草をしながらポッと顔を赤らめる彼を見て、私はなんて幸せ者なのだろうと心が温まった。

7/1/2025, 11:19:44 AM

「夏の匂い」

昼間に入道雲を見た。

夕方、遠くから微かに雷の音と雨の匂いがする。
僕は夕立が来る兆しに香る、この夏の匂いがすごく好きだ。
そろそろ来るかな?
わざと外に出て次第に暗くなる空を眺める。

ポツと鼻先が水に濡れた。
すると間髪入れずにポツ、ポツ…ザーッと豪雨が全身に降り注いだ。

汗でベタついた肌に冷たい雨粒が心地よい。
あっという間に去って行った夕立の後の空は澄んで綺麗な夕焼けが待っている。

夏だけの特別な体験だ。

6/30/2025, 10:28:03 AM

「カーテン」

私は朝が大の苦手だった。
高校卒業、大学への進学を機に両親とは離れて一人暮らしをするようになった。

初めの頃は慣れない一人暮らしにかなり苦戦して、朝が苦手なこともあり遅刻もしょっちゅうだった。
そんなある日、実家から荷物が届いた。
中にはメッセージと自分の部屋で使っていたカーテンが。
「って、なんでカーテン!?普通、目覚まし時計やらじゃない?」

『どうせそっちでも寝坊助なんじゃろうけぇ、慣れとるこのカーテン使いんさい。 あんたの可愛いママより♡』

小学生の頃からずっと使っていたピンク色のストラップのカーテン。
眺めていると、毎朝母親に「早う起きんさい!」と叩き起されていたのを思い出して、笑みがこぼれた。
「はいはい。明日から早起き頑張るよ。」

6/29/2025, 10:30:30 AM

「青く深く」

何かに悩んだり思い詰めた時は海に身を委ねる。

ただ静かに深く深く私を包み込んでくれる果てしない青。
そのまま海の中に溶けるように沈んでいく。

この時だけはこの世界に私だけ。
耳は海水で塞がれて、少し息苦しい…けど、この息苦しさが私に生命の実感をくれる。

もっと青く深く、青く深く、
溶けて私という存在が無くなってしまいそうな程、あなたに溺れたい。

6/28/2025, 10:34:11 AM

「夏の気配」
(※6/27「まだ見ぬ世界へ!」別視点のお話。)

ようやく、どんよりした梅雨が明けた。
朝になると野鳥の声が騒がしく、夜になると田んぼの蛙たちの大合唱が聴こえてくる。
この時期になると、いつも夏休みに泊まりに来る親戚の2個下の妹のことを思い出す。

親から今年も親戚が来ると聞き、俺はすぐに準備に取り掛かった。
毎年、家の近くの自然に連れて行くと彼女はとても楽しそうにしていた。
それが俺は嬉しくて、毎年喜んでもらえるように下調べをしていた。

たまたま親が近くの小川に蛍を見に行こうと誘ってくれて「それだ!」と思った。
あっという間に時間が過ぎ、ついに妹たちが遊びに来た。
「早く早く」と急かす妹をなだめて夜を待った。
目を閉じた妹の手を引いて近くの小川まで連れて行った。
初めて蛍を見たのか目を開けた妹は感動で蛍の光のようにキラキラと目を輝かせていた。

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