「最後の声」
大好きだった彼と距離を置くことになった。
大好きだったけど、一緒にいるのが辛くて好きなのに辛い…どうしたらいいかわからなくなった。
大泣きしながら「少し距離を置きたい…。」という私を彼は責めず静かに頷いてくれた。
距離を置けば何かが変わると思った。
けど、結果は変わらなかった。
最後の時、夜景の見える公園で綺麗な景色を眺めながら彼と最後の時間を過ごした。
時間は穏やかに過ぎて別れの時、なかなか帰らない2人。決意したものの彼のことは好き。でも、一緒には居られない。
「…私なんかに無駄な時間を使わせてごめん。」
涙ながらに言うと抱きしめられた。
「そんなことないよ、君と居た時間は最高の宝物だよ。無駄な時間なんか1秒もなかった。」
耳元で聴こえる彼の優しくて綺麗な最後の声。
きっと私はこの声を一生忘れられない。
「こんな私を愛してくれてありがとう。」
「小さな愛」
仕事でヘトヘトになって帰った。
「ただいま…。」
時間は既に23時を回っていた。
妻も子供も眠っている。
お腹がすいてテーブルを見た時、妻の手作りの大きなハンバーグプレートとその横に子供が描いた僕の似顔絵があった。
ふわふわで美味しい手作りのハンバーグと画用紙いっぱいに描かれた似顔絵と「いつもありがとう」の文字。
心が温まった。
2人の小さな手から送られた大きな大きな愛。
「空はこんなにも」
恋に落ちた。
いつも仏頂面で笑わない人と思っていた彼が、不意に見せた笑顔に。
空はこんなにもどんよりしてるのに、私の心は澄み切っていて気持ちいい。
これまでの些細なできごとや嫌な思い出がまっさらになる。
空はこんなにも重苦しいのに、私の心は空に飛びそうなほど軽やかで楽しい。
自然と顔がほころび、辺りの景色がキラキラ輝いて見える。
明日も彼の笑顔が見れるといいな。
「子供の頃の夢」
子供の頃の夢を覚えていますか?
「はい。」
その夢は叶いましたか?
「…いいえ。」
子供の頃はその夢が叶うと思っていましたか?
「はい。」
現状に満足していますか?
「…いいえ。」
まだ、あの頃の夢を諦められませんか?
「…はい。」
もし人生を巻き戻してやり直せるなら、子供の頃の夢を叶えたいですか?
「はい。」
最後の問いに答えた後、僕を乗せたタイムマシンは過去へと発進した。
「どこにも行かないで」
優しい両親のもとに産まれた礼儀正しく優秀な娘。それが私。
誰が見ても非の打ち所がない素敵な家族。
だがある日突然、私の中で何かが切れてしまった。
きっかけはテレビで、都会のある一角に問題を抱えた子供たちのスラム街のような場所があるというドキュメンタリーを見てからだった。
私はその日以来、あの街の光景が頭から離れなくなった。毎日毎日あの街の事を考えた。
次第に「私もあそこへ行きたい」という思いが強くなった。
両親は私の異変に気づいて、必死に涙を流しながら引き留めた。
「お願いだから…どこにも行かないで。あなたの居場所はここなのよ。」
追い縋る母親を見て、冷酷に言う。
「まだ私を縛るつもり?私の居場所はここじゃない。私は今までどこにも行けなかった。ようやく、自由になれる。」
母は呆然として、父には無言で平手打ちされたが、それでも私の足はあの場所へ向かっていた。
そして今思う、私はなんて愚かな間違いを犯したのだろうかと。
私は「自由」と「無秩序」を勘違いしていた。
自由な居場所なんかではない、ここはこの世の──。
自分がいかに満たされて、何不自由なく生きてきたのか痛いほど実感して、人目も気にせず路上で泣き崩れた。