「さあ行こう」
誰か私を攫ってくれないかな。
なんにも起こらない退屈な日常、特に不満はないけど、なぜか息が詰まる。
空から王子様が現れて、私の手を取ってどこかへ逃避行してくれないかな?なんて、子供みたいな妄想をして、現実に戻ってまた溜め息を吐く。
気晴らしに夜空を眺めていると、空からなにかが近づいてくる。
目を凝らしてよく見ると人間だった。しかも王子様のコスプレ(?)をしている。
まさか、私の妄想が現実に…!?
王子様(?)が私に手を差し伸べる。
「さあ、行こう。」
王子様(?)が私を抱き上げると、私はそのまま宙に浮いた。
恐怖と興奮が入り交じってまるで夢を見ているみたい。これから王子と2人逃避行の旅へ!と思った矢先。
……いっきに身体中の感覚が現実に引き戻された。
あ、そうか…私は…夢を見ていたんだ。
現実はそう甘くないな。
「さあ、今日も仕事に行こう…。」
「水たまりに映る空」
友達と街中を歩いていたらカツアゲを見かけた。
令和になっても、まだこんな古臭いことしてんのかと呆れる。
チンピラみたいな奴らに同い歳くらいの学生が絡まれていた、腕っ節には少し自信があったから、退治してやった。
後日、制服から特定したのか、チンピラ連中が学校まで押しかけてきた。
その中に、見たことない黒服の男がいた。
どうやら、ただのチンピラではなかった様だ。でも関係ない。正義感とかは無いが、腕試しに全員相手した。
結果、俺たち2人は前の日に降った雨でできた水たまりの上に倒れていた。
起き上がった時に水たまりを覗くと腫れ上がった自分と友達の顔、雲ひとつない清々しいほどの青空が広がっていた。
ボコボコにやられるのも、たまには悪くないな。
「恋か、愛か、それとも」
(※6/2 「傘の中の秘密」つづきのお話。)
土砂降りの雨の日、傘の中で腐れ縁のアイツに突然の告白(?)をされた。
あの時、頭の中がごちゃごちゃで特に告白(?)の返事らしい返事せずにダッシュで家に逃げた。
翌日、アイツは何食わぬ顔で登校し、何食わぬ顔で俺に話しかけてきた。
昨日みたいに俺の耳元に近づいて「おはよ。」と囁く。絶対、調子乗ってる。
俺もムキになって、反撃しようとアイツの耳元に近づいて大声で「おはよう!」と叫んでやった。
驚いたかと思うと、すぐニヤけ顔に戻る。
一瞬ドキッとする俺。そんな訳ない。アイツはただの友達、これは友情だ。
愛だの恋だのな訳がない。絶対に。
…そう思っていたのに。
告白(?)から1週間、毎日毎日、ひと目を盗んでは俺に「好きだよ」と囁くアイツ。
俺もだんだん絆されてきた。
勝ち負けとかじゃないけど、そろそろアイツの猛アタックに負けそうだ。
俺は自分の心に問いかけた、
「これは、恋なのか?愛なのか?それとも…?」
不意にアイツと目が合う。
態度ではアイツを煙たがってたけど…あぁ、俺の心は既に答えが出てたんだな。
「約束だよ」
(※3/4「約束 」 別視点のお話。)
あぁ、私は最低の母親だ。
順風満帆だった人生が180℃変わったのは旦那が突然、消えたあの日から。
子供ができて、家も引っ越して、働き盛りのこれからと言う時、子供と家とたくさんのローン返済を残して旦那は忽然と消えた。
その頃の私は自分しか見えていなかった。
毎日、未来の見えない暗闇で足掻いているだけだった。
弱い自分に嫌気がさして、何よりも大切だったあの子のことが見えなくなった。
汚れていく私を見せたくなくて、子供と離れて、返済のため身を粉にして働くことを決めた。
あの子は、実家に預けることにした。
「必ず迎えに帰ってくるからね、約束。」
最後の日、指切り約束をした。
その時やっと、あの子の事をちゃんと見れた。
泣いていた、きっと私がもう帰ってくることはないと気づいていたのかもしれない。
「傘の中の秘密」
お前の大きな傘の中でお前は俺に───
「うわぁ〜最悪だ。これから帰んのに、雨降ってきた。なぁ、誰か俺を傘に入れて〜?」
懇願する俺をよそに「はぁ?」「嫌だね。」「誰がお前とアイアイ傘するかっ」「走れ。」と、まぁ散々な言われようだ。
なんだか本気で泣きたくなってきた。
「…俺ので良ければ、入る?」
そう言ってきたのは昔からの腐れ縁のアイツだった。家も同じ方向だしちょうどいいか。
「おぅ!サンキュ。あんな奴らほっといてさっさと帰ろうぜ!」
俺は肩を抱いて、ヒューヒューと茶化す声を背中に受けながら帰った。
腐れ縁と言っても、2人きりになると何も話すことなく、終始無言の帰り道、もう少しで家に着く頃だった。
「…あ、のさ、好きな子とかいる?」
突然、訳の分からない質問に困惑する。
「は、はあ!?…いゃ、いない。つか男子校だと、出会い無くね?彼女とか欲しいよな…はっ!お前!もしかして、彼女いんの!?」
アイツは目をまんまるくして首を横に振った。
「いないいない!…好きな人はいる。」
「ほぇ〜、お前も隅に置けないな!どんな子?」
不意に傘を傾けられた。ちょうど俺たちの上半身を隠すように。
顔を思いっきし近づけられ、無意識に目をギュッと瞑る。耳元でアイツの声が聴こえた。
「…好きな子、君って言ったら受け入れられる?」
「……ッ!?」
その後の記憶が無い。
でも、これがきっかけで俺はアイツを意識し始めた。