「雨上がり」
(※5/25の「やさしい雨音」つづき)
先生から傘を借りた次の日、私は借りた傘を返しに職員室へ向かった。
しかし、そこに先生は居なかった。
部活動だと言われ、私は音楽室へ向かった。
吹奏楽部の練習はちょうど終わって部員達が出てくる。人が居なくなったのを確認して部室に入ろうとすると、中からピアノの音が聞こえた。
まだ部員がいるのかと少しドアを開いて覗くと、先生だった。
綺麗な手つきで器用に両手で鍵盤を奏でる。
先生の演奏に夢中になっているとドア越しに目が合ってしまった。
「あれっ?どうしたんだ?」
「あ、失礼します。昨日借りた傘を。ありがとうございました!お陰様でびしょ濡れにならずに帰れました。」
「どういたしまして。そっか、それは良かった。……あと、何か?」
傘を手渡してなかなか帰らない私に先生は首を傾げる。
「あっ!いや、えっと、その。」
言えない。ピアノを弾いてる姿がかっこよくて魅入ってたなんて。口が裂けても言えない。
「…なんでもないです!帰ります!さようなら!」
音楽室から勢いよく飛び出ると、突然外からザーッと音が聞こえる。
いつの間にか先生が隣に立っていた。
「あ!まーた雨降ってきた。通り雨っぽいな?そうだ!雨が上がるまで少し雨宿りしていけば?」
「雨宿り?ですか?」
「俺趣味で小さい時からピアノやってるんだけど、雨が止むまで観客になってくれない?」
嬉しい申し出に間髪入れずに返事をする。
「いいんですか!?是非!!」
雨が上がるまでの間、特別な演奏会が始まった。
「勝ち負けなんて」
「「付き合ってください!!!」」
同時にそう叫んで手を差し出した。
俺と親友のあいつは同じ子を好きになってしまった。
勝敗は五分五分…のはず!
心臓の音で周りの音が何にも聞こえない。
「…ごめんなさいっ!」
結果は、残酷にも2人とも敗北だった。
帰り道、2人で公園に寄って、黄昏ていると「ちょっと待ってろ」といって親友はどこかへ行った。
「…ほい、今日は飲もうぜ。」
戻ってくると、缶コーラを俺に手渡した。
「おぅ、ありがとう。」
「勝ち負けなんて、関係ねぇ。お互いよくやったよ。今日は飲んで忘れようぜ!」
親友は俺の肩を抱いて夕日を見上げて1粒の涙を流した。
中学生にしては貫禄のありすぎる親友の姿に思わず吹き出した。
「まだ続く物語」
A) 卵が先!
B ) いいや!俺は絶ッ対に鳥が先だと思うね。
A)じゃあその鳥はどっから来たんだよ?
B) …え?
A) お前アホだなー。空から卵が降ってきたんだよ!そっから鳥が産まれてその…鳥が…卵を、産む?ん?あれ?その卵ってどうやってできんだ?
B) ははーっ!自分で墓穴掘ってやんの!
結局、卵を産まなきゃいけないから鳥の方が先に誕生したんだ!…でも、あれ?誕生するには卵…から?
A)なーんだよ!偉そうなこと言ってて自分だって墓穴掘ってるっつーの。
鳥がむき出しで産まれてくるわけないじゃないか?
どんな鳥だって必ず卵から孵る!
だから────
「渡り鳥」
僕はそこそこ田舎の町に住んでいた。
小学校までの通学路を歩いている時、空を見上げると群れで飛ぶ鳥を見つけた。
綺麗に隊列を組み、空に黒い塊が8の字を描くように飛んでいた。
なぜだか僕は見入ってしまった。
季節が夏から冬へと移ってゆく。
毎日自由に空を翔けていた、あの黒い塊はいつの間にか見なくなってしまった。
僕も連れて行ってくれればよかったのに。
勝手に居なくなってしまった渡り鳥たちに悔しくて、寂しくて、心細くて、
ポロリと涙が出た。
「さらさら」
浜辺の砂を掬い上げる。
さらさらと両手の隙間から砂がこぼれ落ちる。
空を見上げた。
さらさらと空から星がこぼれ落ちてきた。
誰かが星を掬いあげたのだろうか?