27(ツナ)

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5/10/2025, 11:25:34 AM

「静かなる森へ」

人は彼を森の怪物だという。
森へは誰も寄り付かない。
怪物がいるから。

僕はある日、1人で森に入った。
奥へ奥へ進むと全体を草に覆われた小さな小屋のようなものをみつけた。
忍び足で近づき、窓から中の様子を盗み見る。

小屋の中には、人間がいた。
噂の森の怪物は人間だった。
見た目は若く見えるが、白髪と黒髪が混じった髪と外国人のような透き通った青色の瞳。
怪物が不意に僕の方を見て手招きする。
「あぁ、僕も食われてしまうのかな。」
僕は逃げようとは思わなかった。抵抗せずに小屋の中へ入った。

「……。」
直ぐに殺されて食われてしまうのかと思ったが、怪物はじっと僕を見て観察しているようだった。
「…あ、あの。貴方は人間なんですか?」
恐る恐る質問してみる。
「……。チ、チガウ。ニンゲン、ダッタ。」
変なカタコトだが言葉を話した。
人間だったということは今は人間では無いということだ。
「僕を殺して食べますか?」
「…タベナイ。」
怪物は首を横に振ってそう言った。
「どうして僕を家の中に入れたんですか?僕が貴方に危害を加えるかもしれないのに。」
「…ト、トモダチ。」
怪物は小さく震えながらも、僕の方へ手を伸ばしてきた。それは僕と同じ人間の手だった。
「友達が欲しかったの?…いいよ。」
僕は差し出された怪物の手をギュッと握り返した。
それから、この静かな森は僕と怪物の居場所になった。

5/9/2025, 11:13:29 AM

「夢を描け」

白紙の紙とペンを渡して、「夢を描いてください」というと
ある人は紙に大きく「夢」という字を描き、ある人は言葉で憧れの職業を描き、ある人はイラストで今日見た夢を描いた。

ヒトの数だけ、夢がある。

あなたならどうしますか?

5/8/2025, 11:04:52 AM

「届かない……」

私は女なのに背が高いのが幼い頃からコンプレックスだった。「ノッポ」や「巨人」と言われるのは日常茶飯事で辛かった。

高校を卒業し図書館で働いていて、ある日の仕事中、背の小さな女性が背伸びをして必死に手を伸ばして本を取ろうとしていた。

「羨ましいな…」なんて思いながら彼女に声をかけた。
「どの本ですか?取りますよ。」
「あっ、すみません!あの図鑑です。わぁ、ありがとう。」
ヒョイと本を取って手渡すと、彼女は満面の笑みでこっちを見ていた。
「いえいえ、あ、あとはありますか?」
「背が高くていいですね…。」
親切にしたのに嫌味を言われたと思い、少しムッとしてしまった。
「背が高くて凄く綺麗だし、こうしてかっこよく人の役に立てるから、素敵ですよね。しかも、お姉さん優しいからより素敵…。」
早とちりしてしまい、少し恥ずかしかったが、初めて高身長のことを素敵だと言われ、救われた気がした。

5/7/2025, 1:27:37 PM

「木漏れ日」

夏が近づき、日に日に暑くなってきた。
休日、ふと思い立って車で片道30分程で行ける近くの渓谷へ涼みに行くことにした。

人の手が加わっていない、自然豊かな渓谷。木々の間からは幻想的な木漏れ日が無数に差し込み、川の流れる音と野鳥の鳴き声、木の葉のざわめきがこだましていた。

視線を感じて振り返ると、木漏れ日に照らされるように1人の少女がそこに立ってじっと僕の方を見ていた。
まだ少し肌寒い季節なのに、少女はキャミソールの真っ白なワンピースを着ていた。

僕と目が合うと、ゴツゴツした岩場がある方へ勢いよく走っていった。
「危ないよ!」
咄嗟に、そう叫んで少女の後を追うが、少女は軽々と岩場を駆け抜けていって、ついに見失ってしまった。

すると少女が隠れた岩場の奥から、真っ白い羽の蝶が現れ、木漏れ日の渓谷を優雅に舞っていた。

5/6/2025, 11:21:07 AM

「ラブソング」

ラブソングを歌うくせに、リアルな色恋沙汰には興味が無いの?
アフターで行くカラオケの狭くて暗い部屋の中で、彼は私の肩を抱いてラブソングを歌う。
歌詞に出てくる「好き」とか「愛してる」っていう言葉。

一緒にいてお店と歌以外でそんな言葉、言われたこと1度もない。

だから、私はラブソングなんて大っ嫌い。

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