「静かなる森へ」
人は彼を森の怪物だという。
森へは誰も寄り付かない。
怪物がいるから。
僕はある日、1人で森に入った。
奥へ奥へ進むと全体を草に覆われた小さな小屋のようなものをみつけた。
忍び足で近づき、窓から中の様子を盗み見る。
小屋の中には、人間がいた。
噂の森の怪物は人間だった。
見た目は若く見えるが、白髪と黒髪が混じった髪と外国人のような透き通った青色の瞳。
怪物が不意に僕の方を見て手招きする。
「あぁ、僕も食われてしまうのかな。」
僕は逃げようとは思わなかった。抵抗せずに小屋の中へ入った。
「……。」
直ぐに殺されて食われてしまうのかと思ったが、怪物はじっと僕を見て観察しているようだった。
「…あ、あの。貴方は人間なんですか?」
恐る恐る質問してみる。
「……。チ、チガウ。ニンゲン、ダッタ。」
変なカタコトだが言葉を話した。
人間だったということは今は人間では無いということだ。
「僕を殺して食べますか?」
「…タベナイ。」
怪物は首を横に振ってそう言った。
「どうして僕を家の中に入れたんですか?僕が貴方に危害を加えるかもしれないのに。」
「…ト、トモダチ。」
怪物は小さく震えながらも、僕の方へ手を伸ばしてきた。それは僕と同じ人間の手だった。
「友達が欲しかったの?…いいよ。」
僕は差し出された怪物の手をギュッと握り返した。
それから、この静かな森は僕と怪物の居場所になった。
5/10/2025, 11:25:34 AM