「影絵」
私は昔から絵を描くことが好きで、よく影絵を描いていた。
影絵は余計な表情を描かなくても、黒一色だけで表現することができるから好きだった。
絵で食べていくつもりはなかったけど、とりあえず美術系の大学へ進学した。
そこには才能の化け物が大勢いた。私は足元にも及ばない。
校内の展示会である彫刻作品に出会った。
その人物彫刻はあまりにも精巧で、ただの白い石膏なのに、今にも目を開けて動き出しそうなほど、美しい女性の姿に私は自然と涙をこぼしていた。
その作品に出会ってから、私の影絵に表情が生まれ、化け物たちに少し追いついた気がした。
私も、黒一色だけで誰かを魅了するほど美しい作品を作ってやる。
「物語の始まり」
ピッピッ、ピッ、ピ──────。
これで『僕の人生』という物語は終わった。
それからかなりの時間が経過して。
意識を取り戻すと真っ暗闇にいた。
辺りにはドクンドクンと心臓の音だけが聞こえる。
すると真っ暗闇から急に明るい空間に出た。
あまりにも眩しくて声をあげた。
「オギャア、オギャア!オギャア!」
「母子ともに健康です。お母さん、おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」
「生まれてきてくれて…ありがとう。」
これから『私の人生』という物語が始まった。
「静かな情熱」
私の日課は毎日元気に登校して隣の席のクールなあの子に1日1回は話しかけること。
「いえ。」とか「はい。」くらいしか返ってこないんだけど…。
私はめげない!仲良くなるまで!
ある日、イツメンから放課後遊びに誘われたけど、正直今日朝からめっちゃ体調悪くてキツい…。でも、断ったらノリ悪いって思われそうだし、どうしよう…と迷ってると、あの子が突然私の腕を掴んで教室を出ていった。
パニックになってる私を保健室に連れていくとパッと手を離すあの子。
「…突然すみません。今日は朝から元気なさそうで、さっきお友達に囲まれてる時も、すごく辛そうだったので。勝手なことしてすみません。じゃ、無理しないように。」
そう言って教室に戻っていくあの子。
なんそれ…。めっちゃ私のこと、見てくれてるじゃん。好き。
好き好き全開のアホな私と無口だけど超情熱的なあの子との恋が動き出した。
「遠くの声」
山に行くとついやりたくなってしまうのがこれだ。
「やっほー!!」
「……。」
まあ、高確率で返ってこないが。
諦めて帰ろうとしたその時。
「やっほー!!」
だいぶ遅れて返ってきた。
「こんにちはー」
「!?」
やまびこじゃなかったっぽい。なんか面白いので少し付き合ってみることにした。
「こんにちは〜…はじめまして!」
「…うお!はじめましてー!すげえ!やまびこに話しかけられた!!」
僕のことをやまびこだと勘違いしているらしい。
阿呆だ。面白い。
「…あー、僕は人間でーす!」
「……え!人間!?あー、俺は人間ではありませーん!」
「……えっ?」
人間でもなかったっぽい。遠くの声が突然耳元で聞こえた。
「やっほ、はじめまして。やまびこさん。俺は宇宙人です!」
僕は腰を抜かしてそのまま気を失った。
山は今日も危険がいっぱい。
「春恋」
私の恋は春に始まった。
高校1年生、図書室に向かうためにまだ慣れない校舎を歩き回っていた。
私は超がつくほどの方向音痴で、かれこれ30分以上迷っていた。
誰かいないかと、適当な教室の扉を開けた時、先生と目が合った。
「ん?1年生か。どうした?」
艶のある黒い短髪に銀縁メガネをかけた色白で妙に色気のある、その姿に息を飲む。
「……! あ、えっと、すみません!! 図書室ってどこですか?」
つい見惚れてしまい、ハッと我に返る。
すると、先生がクスッと笑った。
「ここが図書室だけど?」
あまりの恥ずかしさと先生の美しさに、思わず目的の図書館から飛び出してしまった。
心臓が痛いくらいバクバクしている。
人生初の一目惚れだ。
桜色に色づく私の頬。
これが、春恋。