「桜」
公園の桜の樹の下から白骨化した女性の屍体が発見された。俺は刑事としてその事件に関わった。たまたま防犯カメラに犯行の一部始終が写っており犯人はしばらくして逮捕された。
俺は逮捕された女の取調を任された。
「動機は?どうして桜の樹の下に埋めようとおもった?」
女は焦点の合わない目で嬉々として語り出した。
「あの子は私を散々コケにした。だから殺しちゃった。人間としてはゴミクズだったけど、桜の養分として綺麗に花葬してあげたかったの、刑事さんも見たでしょ?あの桜。他のと比べて花びらの色が赤みがかってて艶があって…一際、綺麗だったわ……。」
「……桜の樹の下には屍体が埋まっている、か。」
ポツリと呟くと、女は目を輝かせた。
「えぇ!そう!それよ!それが現実になった!刑事さんも、私のこの感動わかってくれるかしら?」
恍惚とする女の顔が脳裏に焼きつき、少しだけ彼女に共感してしまった自分にゾッとした。
「君と」
僕は君にとって、良い夫ではなかった。
亭主関白という訳ではなかったが、あまり君を大切にしてあげられなかったと、歳をとった今更後悔しているよ。
仕事を言い訳に君や子供たちにあまり構うことができず、ついに子供たちには見限られ、君が空へ旅立ってからというもの家には誰も寄り付かなくなってしまった。ひとりぼっちだ。
来世、生まれ変わったらまた君と出会って、君と恋愛をして、君と結婚をして、君とたくさんの思い出を作りたい。
僕は地獄に行って修行してくるよ。生まれ変わったら君を迎えにゆくから待っていてくれ。
「空に向かって」
暖かな春の公園。桜は満開に咲き誇っていた。
私は1人芝生にレジャーシートを敷き、仰向けに寝転がった。
自然と空に向かって手を伸ばしていた。
いくら手を伸ばしても届くことがない雄大な空。自分のちっぽけな悩みが春風に攫われて空の彼方へ消えてゆくように感じた。
そんな、とある春の日のできごと。
「はじめまして」
私には、天然でおもしろい友達がいる。
彼女と出会ったのは中学1年の春。
私の後ろの席で自然と仲良くなった。
ちょうど春休み、2人で遊ぶことになり、地元のショッピングモールへ行った。
階段を降りていた時、私は足を踏み外し残り2段の階段から落ちてしまった。
恥ずかしさのあまりしばらく動けないでいると、友達が心配して声をかけた。
「わあわあわあ!?大丈夫?大丈夫?」
その時、少しのイタズラ心が湧いた。
「…うっ、あ、あれ?ここは?…あなた、は?」
頭を押さえてわざとらしく演技してみた。
「!?」
彼女は驚きのあまり声が出なかった。
ネタバレしようとしたその瞬間。
「は、はは、はじめまして!!!えっと、その…私…。あ、なたは…えっとー?」
「!!…っ、ぷッ、ふふっ、あはははは!! はー、無理無理ごめんごめん!エイプリルフール!今日、4月1日。」
あまりのうろたえ具合に耐えきれず吹いてしまった。
これだから私はあんたの友達を辞めれない。
「またね!」
彼は帰り際、「またね!」と言うのが癖だった。
その日もいつも通り。帰り際に「またね!」と言う彼。
私は「うん。じゃあまたね。」と返して帰宅した。
彼と解散してからたった1時間後だった、私の携帯に彼の親から連絡がきた。……交通事故だった。
私は頭が真っ白になった。さっきまであんなに元気だったのに、生きてたのに。
突然、居なくなってしまった。
ショックが大きすぎて涙もでてこない。
途方に暮れていると、不思議なことに、どこからともなく彼の声が聞こえた気がした。
「…さようなら。」
もう彼の元気な「またね!」は二度と聞けないんだと思い涙が溢れ出てきた。