私の隣に座るあなたの手をなぞる
なげだされた手の甲の節をいったりきたり
意味もなくなぞって、たまに指をつかんで
あなたは私に目もくれず、何も言わず
ただ私の隣に座っている。
傾けた頭をあなたの肩にのせる
逞しくて、重みがあって、いつもより冷たい
物言わぬあなたの頬に触れる
体温のない皮膚は作り物みたいで変な感じ
何も言わずに死んでしまうなんて、勝手な人
生きたあなたがいないと意味がないのに
私が寂しがりなのは知っているでしょう
私を置いていってしまう意地悪な人
どうせなら、私も一緒に連れて行ってほしかった
一匙のティースプーンにのった
お砂糖ほどの小さな幸せ
瞬く間に紅茶に溶けてしまって、
取り出すことはできなくなる
あっという間に過ぎ去ってしまうけれど
どうしても名残惜しくて
ずっとマドラーでぐるぐる掻き回してしまうの
ほんの僅かな幸せのひとときを忘れられないまま
ソーサーを持ち上げる
カップの水面に映る淋しげな自分を口に含んで、
幸せをまたひとつ、飲み込んでしまったの
こんなに遅くまで起きていたのはいつぶりだろうか
年始の朝、知らない芸能人のテレビを観て、
こたつの微睡みに身を預ける
猫に弄ばれていたみかんを拾い、爪を立てて皮を剥く
つまらないくらい愚鈍な時間
堕落した泥濘のような温かさ
薄いカーテンの向こう側が少しだけ
明るくなった気がした
とても辛いだろうけれど、
どうか努力が上手くできますように。
湯船に浮かんだ柚子をつつく
静かに少しだけ進んで、また止まる
それをもう一度前に押し込む
軽い音がして、柚子はお風呂の縁にぶつかる
途端に関心が失せてしまって、天井を眺めだす
白い天井に意識が吸い込まれる
明日が来なければいい
このまま今日、世界が滅んでしまえばいい
朧げな視界の中、水面が迫ってくるのが見えた