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そこにはいつも人がいて、彼らと話すのが好きだった。
いろんな感情、知識、価値観をくれる。
友達と呼ぶには少し違うと言われそうだけど、私にとって大した違いはない。
カウンセラーだとかいってた大人なら少しは同じ事をわかってもらえるのではないかと話してみた。けどそれを悪いことの様に捉えて寄り添うようなフリをして私を表に引きずり出そうとしてくるから気持ち悪かった。
愛想笑いも気遣いも共感もなにも彼らなら求めてこない。
私は彼らがくれる物を受け取ったり受け取らなかったりするだけ。
それが1番気楽。
だから彼らは周りがなんて言おうが私の友達なのだ。
「人は皆孤独ですよね?」
カウンセラーという肩書を持った男に少女は真剣な眼差しで問を投げかける。
男はあっけにとられたような顔をしていたが、すぐに気を取り直し笑顔でこう述べる。
「そんなことはないよ。人は孤独じゃないさ。」
少女は呆れた顔になり少し怒りのこもったような声で言葉を返す。
「ここにくれば、わかってくれる人がいると思ったのに。
そうやって皆が分かり合えると綺麗事を並べて私の孤独は否定されて…。」
「わかるよ」
「あなたにはわからないですよ!」
男の同意の言葉に被せるように少女は声を大きくした。
その怒りを包み込むように男は落ち着いて言葉を並べだす。
「人と関われば関わるほど自分との相違を感じて、真の共感は存在しないんだと思わされる。
本当に解ってくれる人間はこの世にいないんだと関わりが増えるたびに思い知らされる。」
「えっ…」
少女は孤独を否定した男からの予想外の言葉に驚く。
「孤独を否定する人は他と上辺だけの言葉で関わって嘘や建前を疑うことすらせず、その浅い関係性をお互いが受け入れるようなことが起こればまるで親友になったかのように勘違いする。
ただ他を深く見ようともしていないのに、そうやって他と関わり続けた人は人間をわかったような気になり、更に孤独を忘れ他を深く見るという行為自体が頭からごっそり抜け落ちる。」
「…」
「人間を深く見る人がいたらそれは孤独と感じざるを得ないだろうね。
でもね、僕は人間を深く見てる自信だけはある。だから孤独感はよくわかるよ。」
「だったら…!」
「僕は君の孤独感をわかってあげれるし、僕と同じように孤独を感じてる人が目の前にいることが嬉しい。
それはこの瞬間だけは僕らは孤独じゃないってことじゃない?」
少女は落ち着いた表情に戻り
「…そうですか。」
と一言だけ述べると不満げに部屋を去っていった。
少女のプライドとしてすぐさま受け入れる事はできなかったようだが、きっと言葉は届いただろう。
「今日はいい日だ。」
男は席を立ちそう言って窓から空を仰いだ。
優しい言葉は人を侮蔑するときにかけろ。
「無理しないでね」
「頑張ってるね」
「辛いよね」
優しい言葉は呪いになって自分に甘さとして返ってくる。
「休憩しようかな」
「今日はもう頑張ったでしょ」
「もう諦めようかな」
自分の限界も知らないのにその手前で足を止めるやつ。
本当はもっと頑張らなければいけないのに自分を棚に上げてやった気になってるやつ。
自分の弱さから目を逸らし構造や人のせいにして逃げ出すやつ。
お前は病気になったのか?
体はもう動かないのか?
そこは本当に谷の底か?
違うなら走れ。
そして足を止めたやつを踏み台にのし上がれ。
「無理しないでね。君は俺に追いつけないから。」
「頑張ってるね。休みなよ。俺はその間にもっと前に行くから。」
「辛いよね。逃げるのも大事だよ。ライバルは少ない方がいいからね。」
前へ、上へ。
弱音は笑い話になる頃に聞こう。
幕をおろしエンドロールが流れ始める。
今日あったちょっとしたダイジェストが小さく流れる。
うーん、でも何か物足りない。
幕をあげてまた光を浴びる。
物語の続きを始めよう。
もっといい結末を探しに行こう。
エンドロールを流していいと思えるまで光を浴びていよう。
反抗期が来た。
20半ばに差し掛かり、人や世界の輪郭が少しずつ見えてきた。
今まで深く考える必要もなく、悠々と乗っていた誰かの敷いたレールの上を走るトロッコを降りた。
ある人は自分の短所を隠すどころか、自覚すらなく人に振りかざしている。
ある人は根も葉もない夢を語り、足元を見ることなどなく遠くばかり眺めている。
ある人は大した功績を残してもいないのに賞賛を過剰に求め今を怠けている。
ある人は自分の不遇を呪い人を同じ沼に引きずり込もうとしている。
ある人は自惚れから人の粗ばかり見て自分を棚に上げ人を見下している。
ある人は協調性を盲信し逸脱した行為を過剰に批判することで愉悦に浸っている。
ある人は数字ばかり追い犠牲から目を背け目的の達成に囚われている。
汚い人間ばかりだ。
そんな人間が無数にいて自分の友達、親、仲間、知り合いとして横にも数多いる。
ここにいれば自分も同じ種類の人間に見られてしまう。
反抗しなければ。もがいて別の場所に行かなければ。
でも決して綺麗な人間になりたいわけじゃない。
どうせひとり残らず汚い人間。
だから自分の望む汚れが欲しい。
これが自分なんだと誇れるような醜い生き物でありたい。