君へ地図を贈ります。
まず、君が進もうとする道は素晴らしいものです。
こんなに素敵な道はないと私は思っています。
その道を私はもうだいぶ歩いてきました。
転んだことは数知れず、しんどい道のりがいくつもありました。
私はこの道がこの先どこまで続いてるか知りません。
ずっと先を目にしたら私が今この道に抱いている印象とは全く異なるものになるかもしれません。
ですが今私がいるこの地点までの道についてはよく知っています。君がこの道に踏み出すというなら初期装備の1つとしてこれを贈ります。
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何か創ることは
「想像を出来る限りそのまま現実に発現させること」
だと私は思います。
そこで重要なのは出来る限りそのまま発現させる力ではなく想像する力です。
想像するには様々なものを見なければなりません。
それは作品における、
演出技法、光、構図やシルエット、動作、一連の流れ、雰囲気、時間、企画…
分野をまたいでいるのでだいぶ抽象的ですが、具体例は思いつきやすいかもしれませんね。
ですが、これは表層にあるものです。
見るべきものはその奥にあります。
演出意図、作品の伝えたいこと、キャラクターの感情、演者…
これらは少し深いとこにありますがもっと深く見る必要があります。
制作者の感情、思想、届けたい相手、時代
ここまで深く見えれば世界の見え方が変わってくると思います。
実際に生きる人間も嘘をつき、演技をして会話や行動をします。
作品を見ることとさほど差はありません。
フィクションは嘘であっても非現実ではないのです。
大半の人間は表層で止まり、何も見えてない人が殆どです。
お客である間はそれでも特に問題はないかもしれませんね。
ですが、何かを創る人間はそれでは駄目です。
深部を見て、自分と現実を照らし合わせ、思索する。
これができてようやく想像が始まります。
私は深部が見えるまで時間がかかった人間でした。
深部が見えていない時期の想像は稚拙で、ただの猿真似でしかありませんでした。
深部が見えた想像ができた時ようやくどう世界に発現させるかが考えられるようになります。
技術というのはその時に出来る限り想像通りのものを発現させるためのものです。
もちろん表層に置きましたが、技術も見る力が必要です。
これに関しては思索ではなく、出力がまず先に必要です。
出力してようやく解像度が上がります。
見て、考えて、出して、また見る。
これが創るという行為です。
最高に贅沢で楽しい行為ですよ。
これは補足ですが、想像する力は、創る人間に必須ですが、創る人間に関わる人間にも必要です。
創る人間の創りたいものを手伝う事、修正する事、売る事をするのにもその想像する力がなければ足を引っ張ることになってしまいます。
ここまでが私が今君に伝えられることです。
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君についてここ一週間考え続けていました。
それは私の君への態度について自分を見つめ直すということでもありました。
”創るとは何か”を君を見て改めて考えさせられました。
これを書いた理由としては、いち早く私の隣に君が来て一緒に歩きたいという思いが中心にあるのだと思います。
綺麗事のようですが、私の独りよがりな願望ということでもあります。
これは君へ贈る地図です。
私のいる地点から最初に進むならどうするべきかを示しましたが、どう歩くかは君が決めることです。
健闘を祈っています。
私は色水。
紙の上にゆらゆらと浮かび染み込まないように浮かぶ色水。
そこに違う色の色水が近づいてきて私と触れる。
張っていた力が緩んで少し混ざる。
また新しい色水が近づいてきて、また少し混ざる。
そうやって大きな色水が紙に浮かんだ。
どう?私綺麗?
いろんな色に囲まれて前より鮮やかになったんじゃないかな。
いいでしょ?
うん。確かに綺麗。濁った色になってるとこも少しあるけど遠くから見ればとっても鮮やか。
でも私は少し薄くなった気がする。
前はもっと濃い色だったんじゃないだろうか。
今の私はどこまでが私かはっきりと分からない。
きっともっと私は綺麗だった。
私は私の色だと思われるとこまでで色水を切り離した。
少しだけ別の色が混じっている。
以前よりも小さくて少しくすんだ色水になってしまった。
でもそれでいい。今から私の色で染めるのだから。
濃く、強く、激しく染まれ。
私は私だけに染まってゆけ。
私は“好き”をやめない。
隣の君も後ろにいたあいつもみんな“好き”を放り投げていった。
嫌いな物を受け入れ、自分の時間を売り、休息だけが生きがい。
何かができない事をしょうがない事にして諦めてる。
それどころか、諦めてる自分を褒めてもらおうとしてくる。
彼らは衰え、不自由になっていく自分を前進しているかのように棚に上げる。
でも私はそうはならない。
ひたすらに“好き”をする。
そこに全力を注ぎ込む。
“好き”の極地に向かって走る。
速度を上げろ。
光を追い越せ。
時間を止めろ。
輝き続けろ私。
私は“好き”をやめたりなんてしない。
やりたい事なんてある?
いろんな大人が建てた道しるべを必死にたどった。
みんなに遅れないように足が悲鳴をあげようと進み続けた。
いろんな人をみた。
道しるべ通りに凄まじいスピードで駆け抜けて行く人。
後ろから来て私をどんどん追い越して行く人。
道しるべから大きく外れることで逆にみんなから褒められる人。
そんな人を見ていたら私はいつの間にか遠く外れた道に来てしまった。
遠く遠くに見える道しるべが置かれたきれいな道。
あそこに戻ればいいのかな。でも今からあそこに戻ったらみんなはどれ程先に行ってしまうんだろう。
「やりたい事とかないの?」
急にそんなこと言われたって困ってしまう。
こんなところに来ちゃった私にやりたい事なんて言う権利あるの?私のわがままを誰か聞いてくれるの?
ううん。わかってる。
これ以上道を外すなんてとても恐ろしくてできなかった。みんなが行かない道に行ってどこかに辿り着ける自信なんて微塵もない。
でも道しるべの置かれた道に戻ってみんなとの差が明らかになるのも嫌。
そんな情けない私がいるだけ。
だれか私を拾い上げてどこかに連れてってくれないかな。
臆病で卑怯な私を独りで生かさないで。