僕は天才だった。
僕と同い年で僕より先を走る人間は見たことないし、周りの誰もが僕に期待していた。
もちろん僕はそれに応えてきたし、それは苦でもなかった。
ある日他のものに目移りしたこともある。
天才の僕が他ごともできたら周りは更に僕を評価するのだろう。
僕は天才だった。
前を走る誰しもをあっというまに追い抜いて周りから賞賛された。
そうしてまた新しいことを始めた。
そんな僕にも人生を決める日がやってくる。
何をやってもいい、でも僕という人間を生きさせるためにはどれかしらでお金を稼ぐ必要があった。
だから1つに決めなければならない。
僕は天才だったから迷った。
でも一番最初のやつをやる事に決めた。
僕を天才たらしめたはソレだったし、ソレが今までで一番多く人から賞賛された気がしたから。
僕は天才だった。
しばらくしていなかったソレの感覚をすぐさま取り戻し、あの時のソレの天才へと舞い戻った。
僕は天才だった。
しかし、戻ってきた天才の椅子はとても小さかった。
僕が他の物に明け暮れている間に多くの人間に抜き去られ“かつて天才だった”に成り下がったいた。
僕は天才なだけだった。
僕は天才に成る方法を知らない。
“かつての天才”を天才へと昇華させる方法を知らないのだ。
周りの期待は時に合わせて日に日に膨らんでいく。かつての天才は期待に応えられる天才という地位からは程遠い所にいた。
僕はただ無様に焦った。
打算的に情報をインプットし、機械的にアウトプットを繰り返した。
僕はかつての天才だった。
周りの期待の目線はすぐに慰めに変わる。
「よく頑張ってる」「大変だったでしょう」
どんなに耳を澄ましても、
「すごい」「なんでこんなことができるの」
結果に圧倒され、妬みすら含まれた聞き馴染みのある感嘆の声は聞こえてこなかった。
周りの人間達はただただ僕の努力の過程をおもんばかって労うばかりだった。
僕は凡才だった。
天才に成りたいと天へ手を伸ばし、あれよあれよと地に落ちる。
何をすれば良いかも分からず、心を整えるためだけに時間を浪費し、天はどこまでも離れてゆく。
誰かが物語は”敵を排除する話”か”恋愛をする話”の2つしか無いと言った。
敵を排除する、というのは敵を倒すのか、逃げるのか、はたまた和解して味方にするのか、いろいろな解釈はあれど生きるための障害を乗り越えるということなのだろう。
恋愛は子孫を残したいというのもあれば社会の中で認められるというような趣旨も含まれたりするのだろう。
かなり大雑把な2分割をしているが、柔軟に解釈すれば理解できなくもないし、確かに多くの物語がその枠に収まる。なかなかパワーのある秀逸な言葉だと思う。
あなたは、見た事があるだろうか。突然クマに襲われている外国人をそのペットの犬が助ける様な動画を。また、赤ん坊のピンチをペットが救うと言うような動画を。
たったの10秒程で“敵を排除する話”を見せられる。緊張感のある非日常的脅威からどうにか逃れ、安堵感を得ることができる。非常に秀逸な人を惹き付ける内容である。
しかしそれはAIに生成された巧妙なつくりものだと後から知る。実物であると疑いもせず手渡した緊張感と安堵感を差し戻せはしないだろうかと怒りが湧いた。
こういう動画を生成し安易に人の感情を弄ぶ画面の裏にいる下種の顔がちらついて更に腹が煮える。
そんな感情を苦労の末部屋の隅に追いやり、ふと考える。今後はこのような動画が世界に溢れコスパよく感情を起伏させ人は余暇を潰して過ごしていくのだろうか。
動画を見るだけでそれがAIによって作られたものかを誰しもが判断することは難しいほどに技術は進歩している。
そしてそういった物は人の手を圧倒的に越える速度で供給されあっというまにそこらじゅうに溢れかえるのだろう。
そうなれば人はそのうちAIが作ったものかどうかなど気にも留めず、自分の感情の起伏を正当化しその世界を受け入れていくのだろうか。
多くの創作の分野に浸食し創る者の心を細らせできたAIはついに「物語」の分野まで迫っているのではないかと感じずにはいられなかった。
睡魔を抱え朝日を迎えるのは大変癪なので本日はここまでとする。
自分のガソリンはなんだろう。
なにが自分を動かし、筆を走らせるのだろう。
自分の分かってもらいたいものだけで描きなぐった。
でもそれじゃ誰にも届かなかった。
分かってもらいたいあまり僕は自分を隠した。
綺麗なだけの自分を描いた。
心地のいいところで決めつけられたい、誰かの定番でありたい、特異でありながら理解される人間でありたい。
とうの昔に隠した自分を見つめ直す。
何をしたら気持ちいいのか、何をされたら気持ちいいのか。
どんな女の子が好き?どんな奴がゆるせない?何に興奮するの?
もっと、深く、深く、不快で、、
汚い自分。本当の自分。
人に好かれたくて嫌われたくなくて隠した自分。
掘り起こせ。
愛していた
愛してたから近づこうとした。
どこまでも知りたいと思った。
本当の心理にたどり着けるようなきがしたから。
近づいて、知って、考えることが増えて、見えるものも多くなって
現実の輪郭が見えだしたとき歩みを止めた。
これ以上近づけば真実ははっきりと見え現実が形として捉えれるようになるだろう。
でも振り向けば、理想や夢の輪郭はぼやけだしていた。
元からはっきりとしたものではなかったかもしれない。でも前より捉えづらくなったことはわかる。
このまま行けば見えなくなって消えてしまう。
誰かに成ってはいけない。
自分を自分で留めておかないといけない。
そう思い僕は愛していた彼女を殺した。
「何を考えてる?」
そんな事は聞かない
聞く必要もない
ただ君とのズレを思い知るだけだから
何を考えていても、何を想っていても、
耳をふさぐだけ
口をふさぐだけ
大丈夫
君と共有してるこの痛みだけは違わず同じだから