愛していた
愛してたから近づこうとした。
どこまでも知りたいと思った。
本当の心理にたどり着けるようなきがしたから。
近づいて、知って、考えることが増えて、見えるものも多くなって
現実の輪郭が見えだしたとき歩みを止めた。
これ以上近づけば真実ははっきりと見え現実が形として捉えれるようになるだろう。
でも振り向けば、理想や夢の輪郭はぼやけだしていた。
元からはっきりとしたものではなかったかもしれない。でも前より捉えづらくなったことはわかる。
このまま行けば見えなくなって消えてしまう。
誰かに成ってはいけない。
自分を自分で留めておかないといけない。
そう思い僕は愛していた彼女を殺した。
「何を考えてる?」
そんな事は聞かない
聞く必要もない
ただ君とのズレを思い知るだけだから
何を考えていても、何を想っていても、
耳をふさぐだけ
口をふさぐだけ
大丈夫
君と共有してるこの痛みだけは違わず同じだから
小説、映画、漫画、絵画、演劇、音楽、彫刻
そこにはいつも人がいて、彼らと話すのが好きだった。
いろんな感情、知識、価値観をくれる。
友達と呼ぶには少し違うと言われそうだけど、私にとって大した違いはない。
カウンセラーだとかいってた大人なら少しは同じ事をわかってもらえるのではないかと話してみた。けどそれを悪いことの様に捉えて寄り添うようなフリをして私を表に引きずり出そうとしてくるから気持ち悪かった。
愛想笑いも気遣いも共感もなにも彼らなら求めてこない。
私は彼らがくれる物を受け取ったり受け取らなかったりするだけ。
それが1番気楽。
だから彼らは周りがなんて言おうが私の友達なのだ。
「人は皆孤独ですよね?」
カウンセラーという肩書を持った男に少女は真剣な眼差しで問を投げかける。
男はあっけにとられたような顔をしていたが、すぐに気を取り直し笑顔でこう述べる。
「そんなことはないよ。人は孤独じゃないさ。」
少女は呆れた顔になり少し怒りのこもったような声で言葉を返す。
「ここにくれば、わかってくれる人がいると思ったのに。
そうやって皆が分かり合えると綺麗事を並べて私の孤独は否定されて…。」
「わかるよ」
「あなたにはわからないですよ!」
男の同意の言葉に被せるように少女は声を大きくした。
その怒りを包み込むように男は落ち着いて言葉を並べだす。
「人と関われば関わるほど自分との相違を感じて、真の共感は存在しないんだと思わされる。
本当に解ってくれる人間はこの世にいないんだと関わりが増えるたびに思い知らされる。」
「えっ…」
少女は孤独を否定した男からの予想外の言葉に驚く。
「孤独を否定する人は他と上辺だけの言葉で関わって嘘や建前を疑うことすらせず、その浅い関係性をお互いが受け入れるようなことが起こればまるで親友になったかのように勘違いする。
ただ他を深く見ようともしていないのに、そうやって他と関わり続けた人は人間をわかったような気になり、更に孤独を忘れ他を深く見るという行為自体が頭からごっそり抜け落ちる。」
「…」
「人間を深く見る人がいたらそれは孤独と感じざるを得ないだろうね。
でもね、僕は人間を深く見てる自信だけはある。だから孤独感はよくわかるよ。」
「だったら…!」
「僕は君の孤独感をわかってあげれるし、僕と同じように孤独を感じてる人が目の前にいることが嬉しい。
それはこの瞬間だけは僕らは孤独じゃないってことじゃない?」
少女は落ち着いた表情に戻り
「…そうですか。」
と一言だけ述べると不満げに部屋を去っていった。
少女のプライドとしてすぐさま受け入れる事はできなかったようだが、きっと言葉は届いただろう。
「今日はいい日だ。」
男は席を立ちそう言って窓から空を仰いだ。
優しい言葉は人を侮蔑するときにかけろ。
「無理しないでね」
「頑張ってるね」
「辛いよね」
優しい言葉は呪いになって自分に甘さとして返ってくる。
「休憩しようかな」
「今日はもう頑張ったでしょ」
「もう諦めようかな」
自分の限界も知らないのにその手前で足を止めるやつ。
本当はもっと頑張らなければいけないのに自分を棚に上げてやった気になってるやつ。
自分の弱さから目を逸らし構造や人のせいにして逃げ出すやつ。
お前は病気になったのか?
体はもう動かないのか?
そこは本当に谷の底か?
違うなら走れ。
そして足を止めたやつを踏み台にのし上がれ。
「無理しないでね。君は俺に追いつけないから。」
「頑張ってるね。休みなよ。俺はその間にもっと前に行くから。」
「辛いよね。逃げるのも大事だよ。ライバルは少ない方がいいからね。」
前へ、上へ。
弱音は笑い話になる頃に聞こう。