「人は皆孤独ですよね?」
カウンセラーという肩書を持った男に少女は真剣な眼差しで問を投げかける。
男はあっけにとられたような顔をしていたが、すぐに気を取り直し笑顔でこう述べる。
「そんなことはないよ。人は孤独じゃないさ。」
少女は呆れた顔になり少し怒りのこもったような声で言葉を返す。
「ここにくれば、わかってくれる人がいると思ったのに。
そうやって皆が分かり合えると綺麗事を並べて私の孤独は否定されて…。」
「わかるよ」
「あなたにはわからないですよ!」
男の同意の言葉に被せるように少女は声を大きくした。
その怒りを包み込むように男は落ち着いて言葉を並べだす。
「人と関われば関わるほど自分との相違を感じて、真の共感は存在しないんだと思わされる。
本当に解ってくれる人間はこの世にいないんだと関わりが増えるたびに思い知らされる。」
「えっ…」
少女は孤独を否定した男からの予想外の言葉に驚く。
「孤独を否定する人は他と上辺だけの言葉で関わって嘘や建前を疑うことすらせず、その浅い関係性をお互いが受け入れるようなことが起こればまるで親友になったかのように勘違いする。
ただ他を深く見ようともしていないのに、そうやって他と関わり続けた人は人間をわかったような気になり、更に孤独を忘れ他を深く見るという行為自体が頭からごっそり抜け落ちる。」
「…」
「人間を深く見る人がいたらそれは孤独と感じざるを得ないだろうね。
でもね、僕は人間を深く見てる自信だけはある。だから孤独感はよくわかるよ。」
「だったら…!」
「僕は君の孤独感をわかってあげれるし、僕と同じように孤独を感じてる人が目の前にいることが嬉しい。
それはこの瞬間だけは僕らは孤独じゃないってことじゃない?」
少女は落ち着いた表情に戻り
「…そうですか。」
と一言だけ述べると不満げに部屋を去っていった。
少女のプライドとしてすぐさま受け入れる事はできなかったようだが、きっと言葉は届いただろう。
「今日はいい日だ。」
男は席を立ちそう言って窓から空を仰いだ。
10/24/2024, 8:03:43 AM