いやに赤い夕日に照らされ、遊具がどこか薄気味悪く長い影を地表に落としている。
公園は閑散としており、ジャングルジムに登って遊ぶ子供が一人いるだけだ。
彼は知らないのだ。この街に越してきたばかりだから。そこが曰く付きの公園だということを。
一人遊びが得意な彼は、貸切状態と言わんばかりに楽しそうに遊んでいる。
そこに突如、誰かが啜り泣く声。
驚いて注目すると、ジャングルジムのすぐ側でしゃがみ込み泣いている女の子の姿があった。
一体いつからいたんだろう? 不思議に思いながらも彼は女の子に声を掛けた。
「どうしたの?」
「ここで大事なものを失くしちゃったの……」
「そうなんだ。一緒に探してあげるよ」
彼はジャングルジムの中や周辺をくまなく探す。だが、それらしいものは何もない。
そういえば大事なものってなんだろう。
そのことを訊ねると、女の子はゆっくりと顔を上げて、
「大事なもの──それは私の命だよ」
そう答える女の子の頭はぱっくりと割れ、首は折れて真横に傾いている。青白い肌に生気は無く、煤のように真っ黒い虚ろな目で彼を見ていた。
テーマ【ジャングルジム】
短期間のうちにこうも殺人事件が頻発するとは、いよいよ世界の終末が近いのだろうか。
そして、逮捕された犯人は決まってこう言う。
『声が聞こえたんです、殺せ殺せ殺せ、と──』
それはもう犯人同士で示し合わせたように同じ発言をする。目の前にいる取調べ中の容疑者も例外ではなかった。
「そうやって精神異常者の振りをしていれば、罪が軽くなるとでも思っているのか?」
「気をつけてくださいね、刑事さん。この声、伝染りますから……」
話が噛み合わない。詐病などではなく、本当にこいつは精神に異常を来しているとでもいうのか?
その時、耳の奥で何か聴こえた気がした。
──気のせいではない。その音ははっきりと、そして明確な意味を持つ音声となって鼓膜を振るわせる。
殺せ、殺せ、殺せ──と。
声が響く度に頭が割れそうな程の激痛が走る。
これは……これは一体何なんだ?
どうにかしてこの苦痛から逃れたい。そのためにはどうすればいい?
……ああ、そうか。こうすればいいんだ。
私は苦痛から逃れるために、目の前にいる容疑者の首を明瞭な殺意を込めて強く強く絞めた。
テーマ【声が聞こえる】
木の葉が燃えるような紅色に染まっていく。
もう残暑の面影も思い出すことができない程に秋が深まっている。
吹く風が冬の色を帯びてきたせいだろうか。最近は妙に人恋しい。
ああ、あの紅蓮の如き紅葉のような燃える恋がしたい──!
テーマ【秋恋】
もうどれくらいここにいるだろうか。
肉体を失い魂だけの存在となってしまった私は、長い間この土地に縛り付けられている。
なぜ私はここにいる──?
わからない。
何もかも忘れてしまった。自分の姿も、名前すらも。
否、唯一覚えていることがある。
私には“大事にしたいものがあった”
無論、それがなんだったのかは思い出せない。
おそらく、それが私の未練であり、私を現世に繋ぎ止める楔なのかもしれない──
テーマ【大事にしたい】
高所から転落した。
世を儚み身投げをしたわけではない。バランスを崩し落下しただけ──つまりは間抜けな事故だ。
猛スピードで落下しているにもかかわらず、時の流れはひどくスローモーションに感じるのだから不思議だ。
だからか、あれこれ思考が駆け巡る。
地面に叩きつけられたらどうなるんだろう?
きっと衝撃で体中の骨が砕け血が吹き出すことだろう。頭は割れ、場合によっては脳が露出するかもしれない。
嫌だな、そんな最期は……。
時間よ止まれ。
切羽詰まると人は絶対に叶うことはないことを考えてしまうらしい。
地面に叩きつけられるまであとどれくらい?
せめてその前に意識が手放せていますように──
テーマ【時間よ止まれ】