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9/17/2022, 1:56:23 PM

父の目を盗み、私と同じくらいの歳のメイドの手を引き、最近見つけた花畑を目ざして走る。君がいつも綺麗な花を愛でたり、それをまるで閉じ込めるかのように画にする君。

そうやって花を楽しんでいるその瞬間の君はこの世の誰よりも華があって、それを見るのがすごく好きだった。だから、綺麗な花一面の景色を見た時、君がどんな反応をするか気になった。

「うわぁっ!」目を輝かせ、口元に手を当て明らかに喜んでいる君を見て思わず頬が緩む。あぁ、連れて来た甲斐があった。

気づくと君は無邪気に花畑の中に駆けて行っていた。それから、一輪一輪の花に目を配らせている。その姿がまるで花の妖精の様でどきりとした。

「今度また、スケッチブックとか持って来て、ここで絵を描いてみたいです!」
君はここに咲いている花よりも負けず劣らずの笑顔でそう言った。

そう言う君の周りにはスノーフレークや、フリージアが咲いていて。以前、読んだことのある花言葉の一覧が載っている本を思い出した。どちらも彼女に見合った花言葉で思わず胸が高鳴る。

「…もうそろそろ帰らなきゃいけないかな」
あぁ、もうそんな時間なのか。今日はここに来て何も出来ていないのに。せめて、せめて君に一輪だけでも花を贈らせてくれ。この場所に初めて来た時。君をここに連れて来た時はこれを渡すと決めていたんだ。

その目当ての花を見つけると、丁寧に摘む。そして、渡してもう帰ろうと思った瞬間、綺麗な花を名残惜しそうに、儚い瞳で見つめる君を見て、君が花畑に吸い込まれてそのまま消えてしまいそうで、怖くて、直ぐに君の傍に駆け寄って手を握った。こういうのを在る島国では『桜に攫われる』と言う言葉があると友人に聞いたことがある。兎に角そうなってしまいそうで無性に怖かった。

「ど、どうしたんですか?」
俺ははっとして思わず手を離した。
「あ、あぁ、すまない。最後に君に渡したいものがあってな。」
そう誤魔化すと私は二輪の花を君に差し出した。
「わぁっ!ブーゲンビリアとアネモネですね!」
「あぁ、よく知っているな。初めてここに来た時、目に止まってな。君に渡そうと思っていた。」
「本当に綺麗ですね。ありがとうございます、大切にしますね!」
そうやってまた無邪気に笑う君はやっぱり花よりも華があって美しいと心の底から思った。

美しいものは、きっと美しいものを好むから。君がいつか、またこの花たちやそれ以外のものに攫われそうになっても。君をこの手で守りたい。

9/16/2022, 1:23:08 PM

あの子からもうすぐ帰ると連絡が入ったのでお茶を淹れる準備をしていた頃。ざぁっと地面を叩く音が響く。夕立だろうか。刹那、頭の中にある映像が流れ込む。

そうだ、あの子は雨が降ると時々泣いてしまうんだった。一度泣き出すと雨が止まない限り泣き続ける。

それを思い出した瞬間、玄関の戸ががらりと音を立てる。それと共に啜り泣いているであろう音も耳に入る。嗚呼、きっとあの子だ。

あの子は昔から、優しくて、感受性が人より豊かで、周りと少し価値観が違う子だった。

雨が降ると気分が沈むなどはよく聞く話だが、彼女の場合は
「お天道様が泣いている」
と言うのだ。雨が降っている状況を目の前にしてそんな事を思った事は生きてきた中で一度もなかったから、初めてその事を聞いた時は酷く驚いたのを覚えている。そんな風に物事を感ぜられる人がこの世に居たのかと。

そんな時、私は彼女を抱きしめてやることしかできない。そんなことでは彼女が泣き止まないと知っていても。

昔から、彼女のお天道様のような笑顔が好きだ。雨雲は彼女には似合わない。
「今日は、空が泣いていますね。」
返事の代わりに私の裾をぎゅっと握る彼女。愛おしい。愛おしい彼女の涙は今すぐにでも枯らしたいのに。

ねぇ、お天道様。私よく陰湿で地味とよく言われるのですが、貴方が笑って私を照らしてくれてるのが一番好きなんです。だから、そろそろ泣き止んではくれませんかね。

9/15/2022, 4:49:25 PM

東京、二十一時。今すぐ倒れ、眠りこけたい衝動を抑え、いつもの帰路を辿る。最近は仕事がやけに忙しく、愛しい彼女と一緒に居る機会は減る一方だ。
彼女の朝は早い為、人一倍早く寝ることが多い。それに比べ、私は朝は少し余裕があるが、帰宅は人一倍遅いのだ。そんな私と彼女が会えたとしてもどちらかが眠っている場合が殆どなのだ。きっとそれは今日も。
ただでさえ疲れているのに、そんな事を考えていると余計憂鬱になってくる。明日も仕事なのだ。そんな風に気負っていては明日の身体に響く。
気持ちを切り替える為に深呼吸をして歩き出そうとすると、鞄の奥底からバイブ音が響く。仕事関連かと思い、恐る恐る音の主を取り出してみると、そこに表示されていたのは彼女からのLINEの通知だった。今までこのような事はなかったので、内容を慣れない指使いで確認する。
そこに綴られていたのは幾つかのメッセージと写真が1枚。
『お仕事お疲れ様です。多分、今日も会えないですよね。』
『今日の夕飯の余りです。よかったら食べてください。』
『お気をつけて帰ってきてくださいね。』
その下に私の好物、肉じゃがが美味しそうに盛り付けられている写真が載せられていた。
きっと、仕事で疲れている私を労る為に作ってくれたのだろう。そう思うと自然と口元がが綻ぶ。
昔から無愛想にも程がある私の周りにはあまり、人が集まってこなかった。そんな私に人の優しさを教えてくれた貴女。たった数十文字のメッセージで私に力をくれた貴女。愛しい人からのLINEとは、こんなにも、暖かく、喜ばしいものなのですね。
嗚呼、貴女にも感じて欲しい。この感情を。そう思い、私は彼女にメッセージを送り、先程よりも軽い足取りで帰路についた。