あの子からもうすぐ帰ると連絡が入ったのでお茶を淹れる準備をしていた頃。ざぁっと地面を叩く音が響く。夕立だろうか。刹那、頭の中にある映像が流れ込む。
そうだ、あの子は雨が降ると時々泣いてしまうんだった。一度泣き出すと雨が止まない限り泣き続ける。
それを思い出した瞬間、玄関の戸ががらりと音を立てる。それと共に啜り泣いているであろう音も耳に入る。嗚呼、きっとあの子だ。
あの子は昔から、優しくて、感受性が人より豊かで、周りと少し価値観が違う子だった。
雨が降ると気分が沈むなどはよく聞く話だが、彼女の場合は
「お天道様が泣いている」
と言うのだ。雨が降っている状況を目の前にしてそんな事を思った事は生きてきた中で一度もなかったから、初めてその事を聞いた時は酷く驚いたのを覚えている。そんな風に物事を感ぜられる人がこの世に居たのかと。
そんな時、私は彼女を抱きしめてやることしかできない。そんなことでは彼女が泣き止まないと知っていても。
昔から、彼女のお天道様のような笑顔が好きだ。雨雲は彼女には似合わない。
「今日は、空が泣いていますね。」
返事の代わりに私の裾をぎゅっと握る彼女。愛おしい。愛おしい彼女の涙は今すぐにでも枯らしたいのに。
ねぇ、お天道様。私よく陰湿で地味とよく言われるのですが、貴方が笑って私を照らしてくれてるのが一番好きなんです。だから、そろそろ泣き止んではくれませんかね。
9/16/2022, 1:23:08 PM