1000年先も Kiss_31
『ベロニカ… ベロニカ!』
珍しく昼休憩に仮眠をとっていた教授は
何度もその言葉を放っていた。
額に脂汗をかき いかにも
悪夢を見ていました という空気が重い。
「教授 大丈夫ですか?
だいぶ うなされていたようですけど…」
机に伏せて寝ていたせいで
彼の顔にはシャツの皺がついていた。
『あぁ…。
私は何か寝言を言ってなかったかね?』
まだ寝起きで目を細めてはいたが
確実に瞳が泳いでいた。
それから推測するに
彼は動揺を隠せていない。
「いいえ。
とても静かでしたよ。」
私は最善の選択をした。
私は彼の過去を
1000年先も知ることはないだろう。
だが 私はそれが悔しくて
憎くてしょうがない。
それならばと
記憶を呼び起こす口を封じるように
目にかかる髪をどかし
私は教授にキスをした。
勿忘草_30
君が握る勿忘草を 僕は受け取れない。
やっぱり君は優しかった。
君は少し背が低いから
僕の腕にはすぐ包まれてしまう。
おもむろに君を起こし
抱き寄せて
胸の鼓動を感じる。
走ったのは久々だったから
喉が痛く乾いて
胸の鼓動は外にも聞こえるほど速かった。
ここは君と初めて会った公園だ。
勿論 覚えている。
小学生の頃から 君は誰よりも優しかった。
優しいからこそ
君は自分を閉じめて続けてしまった。
僕はそれに 気づけなかったんだ。
情けないよな。
弱いよな。
かっこ悪いよな。
君が朝陽でシルエットとなった時
僕の目頭は熱くなり 辺りが歪む。
今も冷たくなっていく君を抱きしめて
ただ泣くだけ。
僕はいつまでも弱かった。
ブランコ_29
僕はあの人にブランコを譲った。
ただ それは
あの人が次を待っているように見えたから。
僕は君のことが 好きで好きでたまらない。
抱きしめて愛してると伝えたいくらい。
あぁ どうやら 君と僕は
性格が似すぎていたのかもしれないね。
僕は 君の隣で
あの人が座って漕ぐのをのを見た。
優しさだけでは
君に繋ぐ赤い糸は結べない。
だから 強引な人は結び上手なんだ。
ミッドナイト_28
今宵 ウルフムーンの明かりの下
100万カラットのハートを頂きに参上します。
安心と不安_27
私の居場所はいつも お風呂場だった。
泣いて辛さを分け合えるのも
笑って幸せを噛み締めるのも
そこでしかできなかった。
逆に考えるとしたら
そこなら
私の全てを受け入れてくれる場所である
というのが最適解だろう。
鏡を見ては
「大丈夫 だいじょぶ。貴方なら出来るわ。」
と言って 安心感を得る。
今日も鏡を見ては
「大丈夫 だいじょぶ。貴方なら出来るわ。」
と言って 安心感を得ようとした。
だが もう既に限界を迎えていたみたいだ。
顔にシャワーを当て続けても
目頭が熱くなったのは治らない。
湯船に浸かっても
一人であることを思い出させるだけだった。
そして 私は気づいた。
何が一番怖いのか 何が一番不安になるのか。
それは 孤独 だったのだと。