放課後
終業の鐘が鳴る。
生徒たちは疎らに帰り始め、やがて教室には、僕一人が残された。沈んでゆく夕陽が、僕の頬を照らす。
誰もいない教室。
なにをするわけでもなく、ぼんやりと窓際の席に座り、外を眺める。通学路からは、帰っていく生徒たちの話し声が聞こえ、遠ざかっていく。
友だちとなにかあったわけでもない。教師に怒られたわけでもない。親と喧嘩をして、家に帰りたくないわけでもなかった。
ただ時折、なんとなしに感傷的な気分になり、一人教室に残っては、ぼんやりとすることがたまにある。
秋の夕暮れ。
肌寒くなってきたせいだろうか。
季節の変化と、時間の流れは、時に人を感傷的にさせる。
酷く寂しいような、悲しいような。
生徒たちで賑やかだった教室に、一人残っては、そんな感傷に浸る放課後。
陽ももう沈みきる。
辺りは暗くなり、更に寒くなるだろう。
僕は席を立ち、鞄を手に取ると、教室を出た。
人気のなくなった校舎は、誰の気配もなく静かで、いつもと変わらないものだった。
家路に着き、いつもと変わらない日常へと、戻っていった。
カーテン
月明かりが、射し込んでいた。
ガラス戸は僅かに開いていて、閉じたカーテンは隙間から流れ込む、秋の風に揺れている。
私は肌寒さを覚え、ベッドから這い出ると、手を伸ばし、ガラス戸を閉じた。
真夜中の、秋の日。
私は立ち上がり、ガラス戸越しに月を見上げる。
煌々と光を放つ満月に、心を奪われ、しばし立ち尽くす。
日々の喧騒のなかで、忘れてしまっていた自然への郷愁に、心が澄んでいくを感じた。
明日もまた、街の人々のなかに呑まれていかなければならない。
私はベッドに戻り、横になる。
再び襲う微睡のなか、月の明かりだけが意識の境で澄んだ光を放っていた。
束の間の休息
長く苦しい 戦いだった
物語も これで佳境
思い返せば いろいろなことがあった
最後になって思うのは
ようやくこれで 肩の荷が下りる
もしも次があるのなら
もっと穏やかな道のりを
刺激があるのも嫌いじゃないが
安らかな終わりを望んでいた
そうして私は 頁を閉じる
席を立って キッチンへ
珈琲を入れ 束の間の休息
小説を読み終えた後の
これが醍醐味
力を込めて
無気力な僕は
毎日をただやり過ごすだけ
一生懸命に生きる人を横目に
交番の前を通るように、なんとなく目を伏せる
耐えていれば 我慢さえしていれば
過ぎ去ってくれるのだと信じて
なにもなし得ない自分とか
いつの間にか有名になった誰かとか
そんなものに負い目を感じては
耐えて 我慢して 息を殺す
そうしてやり過ごす
僕のポケットの中の右手には
力が込もって 指先が白く色を変えていた