『友達をたくさんつくろう!』
小学四年生の頃の学級目標。
たくさん作ったらなにかいいことがある?
逆に作らなかったら悪いことでもある?
『つくらないひとはおかしい』
という概念が当時のクラスの中でできてしまった。
俺は人と関わるのが苦手だった。今でもそうだ。人と関わろうとしても、俺には協調性がないから何もわからない。気づいたら失言ばかりしていて周りから人がいなくなる。一人でいるほうが正直言って楽だ。
そんなある日のこと。
クラスの学級委員の田中美央が話しかけてきたのだ。
「ねぇ、キミ」
「…………何」
「私と友達にならない?」
…いきなり何を言っているんだこの人。俺には理解ができなかった。
とにかく俺は断った。一人でいたいから。それでも田中美央は話しかけてくる。何度も「友達になろう」と言ってくる。
はぁ、しつこい。
俺は一人でいたいんだ。話しかけないでほしい。
「学級委員の田中さん」
「!?な、何…?」
「俺は何回言われても友達になんてならないから。一人ている方が楽なんだ」
「………………じゃん」
「え?」
田中美央は何かを小さくつぶやいた。俺は思わず聞き返す。
だが、聞き返したことを後悔した。
「名前覚えてるってことは友達じゃん!」
「っ、はぁ?」
予想外の返答が来たのだ。友達の基準が低すぎじゃないか?
「これからよろしく!鈴木海斗くん!」
「チッ…。」
一方的な友達関係が生まれてしまった。
正直言って最悪だ。でも。
意外と「悪くない」と思ってしまった。
友達という関係性がなんだかんだ言って一番難しいのではないだろうか…。
【友達/2023.10.25】
「行かないで」
そう言っても無駄だってわかってるのに言ってしまう。
駅のホームで彼に抱きつく。これからしばらく会えないだろうから。
今日は彼氏が引っ越す日。私達はまだ中学生ーー受験生だから、一人で残るという選択肢がないのだ。だから仕方なく離れることになった。
彼はもう心を入れ替えて心機一転、新しい場所でもうまくやっていこうと試みている。
対して私は……………。
彼と遠距離恋愛になるという現実を受け入れられていない。
今まで毎日一緒に登校して、土日は予定がなかったら二人で買い物をして、一緒にテスト勉強をして。
彼とずっと過ごしてきていたのだ。彼がいない毎日が来るなんて考えたくもない。だから私はずっと「行かないで」と言い続ける。
「駿!電車が出発しちゃうわよ!」
彼のお母さんが電車のドア付近で声を上げる。
もう、行かなきゃなのか…………。私は彼の腰に回していた手を離す。しばらくお別れだ。
その刹那ーー
「由紀乃、」
「?」
彼は私の名前を呼ぶと顔を近づけてきた。
唇が重なる。私は不意打ちの口付けをされた。
吐息とともに重なっていた唇が離れる。それと同時に発車チャイムが鳴り始めた。
彼は急いで電車に乗る。そしてこっちに顔を向けた。
その時に見せてくれた笑顔は過去一眩しかった。数年たった今でも、脳裏と瞼に焼き付いている。
でももう見れないのか。私は彼の仏壇の前で思った。
今でも彼に言いたい。
「いかないで」
【行かないで/2023.10.24】
どこまでも続く青い空を見て思う。
「終点はどこなんだろう」
何事にも終わりは来る。
じゃあ、この空にも終わりはあるのか。
とか、深読みして考えてみたけど、
空ってそういえば宇宙のことだった。
宇宙に終わりなんて存在しない。
じゃあ永遠に続く空なのかあ…。
こんなにきれいな色してさ、
人間は美人ほど短命だ、とか言われるじゃん。
なんで消えないんだろう。
私みたいに周りから「綺麗だ」っていわれるのに。
私みたいに短命じゃない。
羨ましいなぁ。
空になりたいな。
どこまでも続く、寿命のない、きれいな空みたいに。
【どこまでも続く青い空/2023.10.23】
今年も、衣替えの時期がやってきた。
もう夏かと思う。この前まで春だったような気もする。
私の学校には「衣替え移行期間」というのがある。
その名の通り衣替えをする期間なのだが、その期間中は夏服でも冬服でも着ていいのだ。ただし混ざったような服装はダメ。
今日は気温が高くなりそうだ。ということで私は夏服を着ていくことにした。
ワイシャツの上にベストを着る。スカートは冬服より少し生地が薄め。ワイシャツも半袖でいいだろう。
私は家を出た。少し肌寒いと感じたが、支障はないだろう。
学校の昇降口で靴を履き替えると、何故かくしゃみが出た。身体が冷えてしまったのだろうか。
そこへ後ろから、
「風邪引いた?」
と先輩の声がした。
先輩は何でもできてかっこいい。私の憧れの先輩。部活でも練習に一生懸命で、しかも社交性がある。
そんな先輩に話しかけられた。
私は心配をかけたくなくて「風邪なわけないじゃないですかー」と笑って誤魔化す。その直後にまたくしゃみが出た。こんなことになるなら夏服にしなければよかった。
「そんなんじゃ説得力ないんだけど。ほら、これ着ろ。
寒いんだろ?」
「えっ、」
私は先輩から、冬服のブレザーを受け取る。借りても良いのだろうか…。
「部活のときに返せよ?それじゃ。」
先輩はそのまま階段を上がっていってしまった。
すん、と鼻で嗅ぐ。
ブレザーからは先輩の匂いが微かにした。
少しサイズが大きいブレザーを着る。
ブレザーを貸してくれたときの先輩の優しい顔が頭に浮かんだ。
胸が少しだけ、大きく脈打った。
【衣替え/2023.10.22】