「じゃ!またね〜!」
「あ、うん…、また…」
唯一の友達と別れを告げた。
カラオケの看板の光で目が刺激される。
彼女は、コミュ障で引っ込み思案な私と唯一仲良くしてくれる太陽みたいに明るい子。
夏休みに入ってから二人で遊ぶことが増えて、毎日が楽しく感じられる。
遠ざかる彼女の背中。
明日も明後日も遊ぶ約束がある。楽しみだな。
足場の立っているカラオケ。
どうやら老朽化によって閉店したらしい。
ついにここもなくなってしまったのか。
交差点を二つ渡って右に曲がる。
そこには大量のお供え物と花が置かれていた。
私も、手に持っていた花束を置く。
「またね」なんて嘘、つかないでよ。
【またね/2025.8.6】
「あー寒い……」
いつもと同じように、半袖のワイシャツに腕を通す。それなのになんだか寒く感じてしまう。
エアコンの温度も大して低くないし、どうしてこんなに?
というタイミングでテレビから天気予報が聞こえてきた。
『今日の東京は最高気温26℃、昨日よりとても涼しくなります』
『遂に秋到来、という感じですかねえ』
『そうですねー。これから気温が30℃を超えることは無い見込みなので、完全に秋が来たんじゃないでしょうか?』
「秋、か」
ついに秋がやってきたらしい。だから寒く感じるのか……。
考えてみればセミもいつの間にかツクツクホウシくらいしか聞こえなくなったし、スズムシやコウロギの鳴き声も耳をすませば聞こえてくるようになっていた気がする。
衣替えしなきゃだな……と頭で考えながら支度を完了させた私は仕事に向かった。
秋特有のこの心地良さが、私はとても好きだ。
いつもより少し快適だからか分からないが、気分が上がったまま私は駅へと向かった。
私の頬を、そっと秋風が撫でた。
【秋🍁/2024.09.26】
彼は雨を見て言った。
「空が泣いてるね」
初めはよく分からなかったが、次第に脳が理解してきた。彼は文才かなにかか?
「随分とかっこいい言い方するじゃん」
「ん?まぁ、そういう表現の仕方勉強してるし」
「勉強? なんでそんなこと……」
「俺、小説家になりたいんだ」
会話をしているうちに、初めて聞くことがでてきた。
小説家になりたい、だなんて今までで1度も聞いたことがない。
どうやら家でもちまちま小説を書いているのだとか。
だからそんなに素敵な表現が出てくるのか、と感心と納得をした。
―――数年後
地面を打ちつける雨を見て、
(あ、空が泣いてる……)
と感じた。
そういえば彼は元気にしているのだろうか。
と思った矢先に、目の前の本屋が目に入った。
壁にはPOPが数枚貼られている。
その中の一枚に……
『―――のデビュー作「空が泣く」 300万部突破』
【空が泣く/2024.9.17】
年に一度しか会えない、彼との特別な夜。
地上では今年も雨らしいけれど、私からしたら逆に嬉しい。
橋の真ん中で、彼の手を取る。
「今年も会えて嬉しいわ、彦星様」
「僕も嬉しいよ、織姫」
そっと優しく口付けをする。
一年ぶりの感触。
天の川に一年に一度だけ架かる橋で、彼と2人。
世界で一番幸せで、特別な夜。
【特別な夜/2024.1.21】
美しい、と初めて思った。
静かにゆっくりと流れる紅黒い血液。
わたし、生きてるんだ。
改めて実感した。
【美しい/2024.1.16】