ユウキ

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12/20/2024, 2:49:37 PM

耳元でリーンと音がした。
「ああ…もう戻れないや。」
目の前で誰かが笑った。いや、誰なのか分かっている。
でもその顔が、さっきまで記憶していた誰かと合致しない。
天使か悪魔か、それとも別の。
「本当に後悔しない?」
誰かが言った。
「うん。」
それは本当で、嘘。
もう後悔をしている。本当にこれで良かったのかどうか。きっと後で悔やむ。でも、ここにいる。
「後悔…しないよ。」
震える声で、挫けそうになる心で、僕は言った。

2024.12.20 「ベルの音」

12/19/2024, 2:47:22 PM

「明日?」
国に帰るんだ、そう告げたハルの言葉を驚きながらも、どこかそれを予期していた自分がいた。
国に残している母親の病状が良くない、そう聞いていたのはつい2週間前の事だった。その時の顔色は少し青ざめていて、何かに迷っているようだった。
もしかしたらもっと前から国に帰らなければならなかったのかもしれない。
賑やかだった酒場の喧騒が急に遠くに感じられた。
「そうか…。」
思った以上に気落ちした声が出てしまった。それを聞いて、ふふっとハルが笑った。
少し気恥ずかしくなり、むっとした顔をつくって「なんだよ。」と吐き捨てた。ハルは慌てたように俺の言葉を否定した。
「違うよ。嬉しいんだ。」
「嬉しいだって?」
「だって寂しそうに呟いてくれたから。」
「そんなのお前の勘違いだ。」
「そうかなぁ。」
照れくさそうにしながら、ハルは続けた。
「だってもし君が寂しいって思ってくれるなら、それだけ君の中にある僕の思い出は良いものって事だろう?」
「ふん、煩い誰かさんがいなくなって、静かになるのが寂しいってだけだ。いなくなって清々するさ。」
「手厳しいなぁ。」
「お前がいなくても当たり前だった日常にもどるだけだからな。寂しいだなんて、思ったりするかよ。」
お互いに顔を見合わせてニヤリと笑った。
ジョッキに残っていたエールを飲み干して、ハルは言った。
「僕は寂しさってのは、絶対的に必要なものだと思うよ。」
「なんだ突然。」
ふふ、とハルがまた笑って続けた。
「寂しさがあれば、アナタに次会った時の嬉しさもひとしおだから。」
「は、なんだよそりゃ。そんなら次はその嬉しさからもっと最高級の酒を奢ってくれよ。」


2024.12.19 「寂しさ」

12/18/2024, 4:25:38 PM

丘の上にある粉挽小屋にはチルチルおばさんと、1匹のロバが暮らしています。
おばさんもロバも太陽が昇る前に起き出して、ロバが粉を挽き、おばさんがその粉を捏ねてパンを焼きます。

晴れの日も雨の日も、はたまた風の強い嵐の日も、毎朝変わらずにパンを焼いています。
出来上がったパンは村のみんなの朝ごはん。丘の上から漂ってくる美味しい香りでみんな目を覚まします。
「おばさんのパンの美味しそうな香りがするぞ!」
「今日もきっと美味しいぞ!」
みんなおばさんのパンを毎日楽しみにして、丘の上からチルチルおばさんがやって来るのを楽しみにしています。
毎朝おばさんが持って来るパンは、いつも変わらず美味しくて、みんな大好きでした。
「どうやったらこんなに美味しく焼けるんだろう、コツでもあるのかい?」
ある時誰ががおばさんに尋ねました。
「コツなんてないの。ただみんなと『美味しい』を分け合えるのが嬉しいと私が思っているだけ。」

「一緒に誰かと何かを分け合える。それがとても美味しく感じられる秘密なの。」

それはいつも通りの、ある寒い冬の日の事でした。


2024.12.18「冬は一緒に」

12/17/2024, 3:14:37 PM

「やば、めっちゃ暗くなってきよる。」
「ほんとやん、そろそろ帰らんと。」
学校からの帰り道、なんとなく家に帰りたくなくて、まだ話がしたくて立ち止まった分岐路。
とりとめもない話は尽きることなく、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
日が傾いているのはなんとなく気がついていたけれど、今日の区切りをつけたのはアナタだった。
「帰ってからすぐ宿題せんといかん。けどしたくないー。」
「分かる!分からんかったら、連絡しても良い?」
「良いよ!寧ろ教えて!」
少し名残惜しい気持ちを抱いて、最後の話を口にした。
「じゃあね。また明日!」
「じゃねー!」
明日も同じような帰り道になるのだろうけれど、もしかしたら違うのかもしれない。それでもまた明日、あなたと話が出来ると良い。

2024.12.18「とりとめもない話」

12/16/2024, 3:05:39 PM

2回咳が出た。
そうすると続けて3回咳が出た。
それ以上出したくないと思うけれど、身体は言うことを聞いてくれず、また3回咳が出た。
こんなに苦しい思いをするのは久しぶりだ。
ここ10年は風邪をひかなかったのに。

子供の頃も風邪をひいていたけれど、あの時は母親が付きっきりで看病してくれたっけ。

今は1人きりだから、自分が自分の世話をしなくちゃいけない。
こんなに苦しく、どうしようもない現実が明日も待っているだなんて。

いつか治る風邪のように、現実も治せれば良かったのに。

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