川柳えむ

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12/21/2025, 2:00:44 AM

 家の中を整理していると、鏡台の引き出しの奥の方から、古い箱が出てきた。
 その箱を開くと、かわいらしいリボンの髪留めが入っていた。
 そのリボンには見覚えがあった。
 どこで見たのか記憶を探る。そして思い出した。
 書斎の一角にまとめられたアルバムから、それを見つけ出した。
 母の、私が生まれる前の写真。
 母と父が寄り添って笑っている。その母の頭に乗っているのが、まさしくこのリボンだった。
 母の宝物だったのかな。
 だって、この写真の母は特別幸せそうに見えた。
 その、母のリボンの髪留めを、自分の頭につけてみる。
 笑った顔は、母にそっくりだった。


『時を結ぶリボン』

12/19/2025, 10:39:53 PM

「今年はサンタさんに何をお願いするの?」
 今年引っ越してきたばかりで、まだ周りに慣れていない。友達とも離れ、さぞかし寂しい思いをしているだろう。
 せめてクリスマスだけでも盛大に。プレゼントも豪華にして楽しんでもらおうと、お母さんが女の子に尋ねた。
 女の子はその言葉にすぐさま目を輝かせた。
「キラキラしたもの!」
 キラキラしたもの? 宝石とかそういう?
 さすがにそれはまだ早い。おもちゃの宝石でいいだろうか。
 そうしてプレゼントを決め、クリスマス当日がやって来た。
 天気は悪く、厚い雲が空を覆っていた。
「今日は冷えるわねぇ」
 予約していたケーキを受け取りに、お母さんは女の子と共に道を歩いていた。
 突然、女の子が声を上げた。
「キラキラ!」
「え?」
 女の子がお母さんに向かって手を差し出す。
 手袋をはめたその手の平の上に、小さな雪の結晶が乗っていた。
「……雪?」
 見上げると、雪が舞い出していた。
 今まで南の方に住んでいた女の子が雪を見るのは、これが初めてだった。
「キラキラ! わぁー」
「キラキラって……」
「サンタさん、ありがとう!」 
 女の子が喜ぶ顔を見て、お母さんもサンタクロースに感謝した。


『手のひらの贈り物』

12/18/2025, 10:32:02 PM

 私は端数の存在。どこへ行っても余り物。
 小さい頃からそうだった。最後に残されるのは私だ。

 たとえば、仕事でも。いつ切り捨てられてもいいような、いつもそんな位置にいる。
 たとえば、恋愛でも。誰かの隣にいることも叶わない。端数なのだ。手を伸ばしても届かない。大切な人の隣には、必ず私以外の大切な人。

 日曜の朝。ホームに滑り込んできた電車は気怠そうに。乗り込むと、ゆっくりとまた走り出した。
 透き通るような青空が、窓の外に広がっている。
 どこへ向かおうとしているわけでもなく、ただぼーっと電車に揺られながら、窓の外を眺める。

 このまま消えてしまっても、誰にも気付かれない。誰の記憶の片隅にも残らない。
 たとえば、私の存在で誰かが傷付くとしたら。同じように私も傷付いていたとしても、端数である私が消えるべきなのだ。

 それでも、もし誰かが私のことを少しでも心の片隅に残してくれるのなら。
 そう言ってくれる誰かの存在があるならば。
 それがたとえ、口先だけでも。私自身がそれを知っていたとしても――私はまだ、生きていける。
 世界の片隅で、そんなことを思う。


『心の片隅で』

12/18/2025, 3:18:33 AM

 ずっとある人を待ち続ける少女がいた。
 ――何処へ行ってしまったの? きっと帰ってくるよね?
 そう信じていたのに、いつまで経ってもその人は戻ってこなかった。
 裏切られたと、少女は思った。
 怒りと悲しみが入り混じって、洗い立てのテーブルクロスにまるでコーヒーを溢したかのように、白は黒へと染まっていった。
 信じる心はもう失った。コーヒーカップは倒れたまま。
 ここは閉ざされた闇の世界。世界に白は存在しない。
 そんな風に思っていた。

「雪です」

 嬉しそうに息を切らして、1人の少年が部屋へと入って来た。

「雪?」

 白を失った少女が、少年に尋ねる。

「はい。雪が降ってきたんですよ!」

 少年の言葉に、少女は立ち上がって窓の外を眺めた。真っ白いものが、空からたくさん零れ落ちている。

「白……」
「珍しいですよね。この辺りに、こんなに雪が降るなんて」

 少年の嬉しそうな声を背に、少女はその景色をぼんやりと見つめていた。

「雪、綺麗ですよね。折角ですし……楽しみましょう!」

 少年が少女の手を引いて、外へと飛び出す。
 世界は一面、白で覆われていた。

「たまにはいいですよね。こんな景色も」

 ずっと見ていなかった。
 目が痛くなるくらいの、白。
 雪は、全ての音を吸収するように、静かに降り続けている。

「――――」

 その静けさは、少女の心の叫びまでもを掻き消してしまう。

 信じないって心に決めた時から、少女にはもう黒しか見えなかった。
 目の前は全て闇に覆われていた。
 それなのに、降り積もる雪は白く輝いていた。

「雪って、こんなに白いんだね」

 黒く汚れたテーブルクロスは、白い雪に隠されてしまった。
 雪が溶けてしまっても、水へと変わって、それはきっと黒い汚れを流していく。
 真っ白には戻らなくても。
 今なら少しは……許せそうな気がした。

 雪の、白の眩しさに、少女は目を細めた。
 少女の口許が、心なしか緩んでいた。


『雪の静寂』

12/16/2025, 1:59:24 PM

 君が目覚めなくなった。

 その日はなかなか起きてこないから、僕は君を起こしに行った。
 君は不機嫌そうに目を開けて、こちらを睨んだ。
 あぁ良かった。起きた。もうそろそろ出る時間だろ?
 僕は先に部屋を出て、君がやって来るのを待っていた。
 それなのにまだやって来ない。また寝てしまったのかな? 君は寝るのが好きだから。
 そうして、再び君の部屋へと立ち入った。
 そこで見たのは、相変わらずの薄暗い部屋でベッドに力なく横たわったままの君と、机や床に転がり落ちた空の瓶と大量の錠剤。
 異様な光景に、冷や汗が背筋を伝う。
 慌てて君に駆け寄り、様子を窺う。唇は青白く、肌はいつもよりずっと冷たく感じた。
 一瞬、最悪の状態を想像してしまった。よく見れば、喉の奥からかすれた吐息が漏れている。しかし、呼吸は浅く、弱々しい。
 生きていることに安堵する。それでもまずい状況には変わりない。
 急いで救急へ連絡を入れた。どうか、どうか助かりますように。

 それから、君は眠ったままだ。ずっと。僕の顔なんか見たくもないと言うように。
 本当は知っていた。君が僕を嫌っていることは。
 小さい頃は仲が良かった。それなのに、周りが僕らを勝手に比較して、君はいつも苦しそうにしていた。そして、だんだんと君は僕から離れていった。
 それでも、僕にとっては君だけだ。何者にも代え難いほどに大切だった。
 僕のことが嫌いなら、僕を殺してしまってもいいから。どうか目覚めてくれないか。君に生きていてほしいんだ。
 君はそんな僕の想いなんか露知らず、どこか幸せそうな顔で眠っている。一体どんな夢を見ているのだろう。
 それならせめて、怖い夢であってほしい。君が目覚めたくなるような、怖い夢で。


『君が見た夢』

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