川柳えむ

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 君が目覚めなくなった。

 その日はなかなか起きてこないから、僕は君を起こしに行った。
 君は不機嫌そうに目を開けて、こちらを睨んだ。
 あぁ良かった。起きた。もうそろそろ出る時間だろ?
 僕は先に部屋を出て、君がやって来るのを待っていた。
 それなのにまだやって来ない。また寝てしまったのかな? 君は寝るのが好きだから。
 そうして、再び君の部屋へと立ち入った。
 そこで見たのは、相変わらずの薄暗い部屋でベッドに力なく横たわったままの君と、机や床に転がり落ちた空の瓶と大量の錠剤。
 異様な光景に、冷や汗が背筋を伝う。
 慌てて君に駆け寄り、様子を窺う。唇は青白く、肌はいつもよりずっと冷たく感じた。
 一瞬、最悪の状態を想像してしまった。よく見れば、喉の奥からかすれた吐息が漏れている。しかし、呼吸は浅く、弱々しい。
 生きていることに安堵する。それでもまずい状況には変わりない。
 急いで救急へ連絡を入れた。どうか、どうか助かりますように。

 それから、君は眠ったままだ。ずっと。僕の顔なんか見たくもないと言うように。
 本当は知っていた。君が僕を嫌っていることは。
 小さい頃は仲が良かった。それなのに、周りが僕らを勝手に比較して、君はいつも苦しそうにしていた。そして、だんだんと君は僕から離れていった。
 それでも、僕にとっては君だけだ。何事にも代え難いほどに大切だった。
 僕のことが嫌いなら、僕を殺してしまってもいいから。どうか目覚めてくれないか。君に生きていてほしいんだ。
 君はそんな僕の想いなんか露知らず、どこか幸せそうな顔で眠っている。一体どんな夢を見ているのだろう。
 それならせめて、怖い夢であってほしい。君が目覚めたくなるような、怖い夢で。


『君が見た夢』

12/16/2025, 1:59:24 PM