夏休み最終日。
僕は机の前に座って頭を抱えている。
昨日もつい遊びに行ってしまった。でもこれは不可抗力だ。だってイベントがあったんだ。イベントの日付はずらせない。だから仕方のないことだ。
本当は今日もイベントがあるのに、それを断念してここにいるだけでも褒めてほしい。
でも、わかっているんだ。
この一ヶ月以上あった夏休み。遊び呆けて、今この有様。最終日だというのに、夏休みの宿題が終わっていない惨状。
あーやだやだ。あと一日……いや一週間、一ヶ月! 夏休み続かないかなぁ。ね、夏休み、延長しませんか?
あー夏休み終わりませんように終わりませんように終わりませんように終わりませんように。
神様願いを叶えてください!
『8月31日、午後5時』
オフィスに入ると、そこには、ファンから届いた花束やプレゼントがずらりと並んでいた。
主役の二人は、嬉しそうに笑って、それを眺めた。
『お誕生日おめでとうございます』
花束にメッセージカードが添えられている。
誕生日の二人に向けられたお祝いの言葉。
「これ見て。俺宛てのやつ。『いつも癒されてます』って書いてある」
「こっちは『いつも笑わせてもらってます』だって。役割分担完璧じゃん」
そう言うと、片割れが小さく笑った。
似ているようで違う。違うようで似ている。
それが、彼らという双子。双子で人気タレントの彼らは、まるで明るく輝く二つの星だ。そう。あのカストルとポルックスのように。
「二人でここまで来たんだねぇ」
「二人だから来れたんだよ」
「知ってる」
もちろん上手くいかなかったこともあった。
でも、片割れがいつも一番の味方でいてくれた。
間違いなく、二人だからここまで来られたんだと、お互いに思っていた。
顔を見合わせて笑う。
「ねぇ。動画撮ろうよ。お礼も兼ねてさ!」
「お礼なら仕方ない」
二人なら最強だと自負している彼らは、カメラを回して最高の笑顔を作る。二つの星は更に輝く。
その様子をカメラ越しにスタッフがそっと見守る。
そして、その映像がまた動画投稿サイトに上がり、たくさんの人が二人を温かく見守り続ける。
『ふたり』
人が少なくなった海を、浅瀬を君は素足で歩く。
少し涼しくなった風が流れて、それに乗せるように歌を歌う。
その歌声が、あまりにも儚く、消えてしまいそうで、僕を不安にさせる。
君にこの世界はどう映っているんだろう?
僕には今、この風景がとても美しく見える。泣きたくなるくらいに。
でも、君の心の中の風景はわからない。君はたくさん考えてしまうから、この風景も、とても穢く映っているのかもしれない。
それでも僕はこの風景を心に刻む。本当に君が消えてしまっても、忘れないように。失わないように。
『心の中の風景は』
草原に草が生い茂っている。
ふと、松尾芭蕉が詠んだ句を思い出す。
夏草や 兵どもが 夢の跡
ここには昔から栄華などなかったから、違うが。
昔から、変わらず田舎の風景だ。夏になると、力強く草が生い茂る。そんな場所。
ここに来ると夏を感じる。
今風に言うと「エモい」ってやつだ。
これからも変わらずに、ここにあってほしい。
『夏草』
道端の占い師に、毎日話を聞いてもらっていた。
ありがたいことに、常連だからと、格安で視てもらうことができた。
その占い師の言うことには、近い内に会う人が運命の人だと。それは、友情や愛情を超え、何よりも強い絆になる、と。
そしてとうとう、その運命の人と出会った。
「その人は運命の相手です」
「あなた達の間には、切っても切れない繋がりがあります」
「そう。それが何よりも大切な絆なのです」
「あの人の言うことを聞いていれば大丈夫」
運命の人にたくさん頼られた。頼られるのは、悪い気はしなかった。自分も頼りにしていた。
占い師の言うことも頼りにしていた。たくさん話を聞いてもらったし、聞いた。
何でも言う通り聞いていた。
占い師の言うことと、運命の人が言うこと。何でも。
あー。そうだったのか。
どうやら全て紛い物だった。
繋がっていたのは自分と運命の人じゃなく、占い師と運命の人だった。
絆なんて、人に言われてわかるものじゃない。
自分自身が感じるものだと、昔からの友達に話を聞いてもらって、ようやく気付いたのだった。
大切な絆は、元々ここにあったのだ。
『ここにある』