川柳えむ

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8/30/2025, 3:30:45 AM

 人が少なくなった海を、浅瀬を君は素足で歩く。
 少し涼しくなった風が流れて、それに乗せるように歌を歌う。
 その歌声が、あまりにも儚く、消えてしまいそうで、僕を不安にさせる。

 君にこの世界はどう映っているんだろう?

 僕には今、この風景がとても美しく見える。泣きたくなるくらいに。
 でも、君の心の中の風景はわからない。君はたくさん考えてしまうから、この風景も、とても穢く映っているのかもしれない。
 それでも僕はこの風景を心に刻む。本当に君が消えてしまっても、忘れないように。失わないように。


『心の中の風景は』

8/28/2025, 10:48:01 PM

 草原に草が生い茂っている。
 ふと、松尾芭蕉が詠んだ句を思い出す。

 夏草や 兵どもが 夢の跡

 ここには昔から栄華などなかったから、違うが。
 昔から、変わらず田舎の風景だ。夏になると、力強く草が生い茂る。そんな場所。
 ここに来ると夏を感じる。
 今風に言うと「エモい」ってやつだ。

 これからも変わらずに、ここにあってほしい。


『夏草』

8/27/2025, 10:35:54 PM

 道端の占い師に、毎日話を聞いてもらっていた。
 ありがたいことに、常連だからと、格安で視てもらうことができた。
 その占い師の言うことには、近い内に会う人が運命の人だと。それは、友情や愛情を超え、何よりも強い絆になる、と。

 そしてとうとう、その運命の人と出会った。

「その人は運命の相手です」
「あなた達の間には、切っても切れない繋がりがあります」
「そう。それが何よりも大切な絆なのです」
「あの人の言うことを聞いていれば大丈夫」

 運命の人にたくさん頼られた。頼られるのは、悪い気はしなかった。自分も頼りにしていた。
 占い師の言うことも頼りにしていた。たくさん話を聞いてもらったし、聞いた。
 何でも言う通り聞いていた。
 占い師の言うことと、運命の人が言うこと。何でも。

 あー。そうだったのか。
 どうやら全て紛い物だった。
 繋がっていたのは自分と運命の人じゃなく、占い師と運命の人だった。

 絆なんて、人に言われてわかるものじゃない。
 自分自身が感じるものだと、昔からの友達に話を聞いてもらって、ようやく気付いたのだった。
 大切な絆は、元々ここにあったのだ。


『ここにある』

8/26/2025, 8:02:15 PM

 素足になって砂浜の上を駆ける。
 熱い砂に飛び上がり、笑い、そのまま海の中へと足を伸ばす。
 丁度よい水温は、火照った足の裏を、足首を、ふくらはぎを冷やしてくれる。

 気持ち良い。
 日射しは暑いが、このままぼーっとしていたい。

 もうすぐでこの休暇も終わる。
 また心を厚く装って、作り物の笑顔を浮かべる日々が始まる。
 素足のままではいられない。

 だから、終わりまで。もう少しだけ。
 何も装わず、このままで。


『素足のままで』

8/25/2025, 10:28:33 PM

 あと少し、もう少しなんだ。
 目の前に見えているのに届かない。
 もう一歩だけ、それで、辿り着くのに。
 もう、歩けない……。
 水が欲しい。オアシスは目の前にあるのに、届かない。
 もう一歩が、どうしても足りない。
 そのまま意識は遠退いて。
 オアシスが本当に存在していたのか、それとも蜃気楼だったのか。それすらもわからぬままに。


『もう一歩だけ、』

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