体が重くて、なかなか上手く進めない。おかしいな。
周りの猫よりもずっと狩りが上手くて、誰よりも早く走れていたのに。
なんだか意識も朦朧としてきて、そのまま倒れた。
でも気付けば、体が軽くなっていた。こんなに上手く飛び跳ねられたのはいつぶりだろう。
そうして、いつもの庭を飛び出して、どこまでも遠くまで駆け出した。
いつも見上げていた遠くの空へ。その先の向こうへ。
遠くまで遠くまで駆けていくと、今度はだんだんと体が上手く動かせなくなっていく。
ゆらゆらと、ふわふわと。
進んでいくうちに気付いた。
やあやあ、そうか。これが、世に聞く――“宇宙”。
――聞こえますか? こちら、宇宙猫C号。
宇宙はすごい。広い。なかなか前へ進めないことだけが難点だ。
ずいぶんと前に聞いたことがある。人間はなんだか重そうな格好をしないと宇宙にいられないと。
それに比べて、私はすごい。
だってそのままの姿で、のろのろとすいすいと。ゆっくりだけど、進んでいく。
そうやって進んでいったら、隣の星に着いた。
衛星『月』。
――地球の皆さん、どうしてますか? こちらからは、鏡の向こうで見た青い青いまあるい目のような、キレイな星が見えます。
とても体が軽いです。飛び跳ねたらどこまでも飛べそうなくらい。聞いたことがある。月は地球と比べて重力が小さいって。だからこんなに簡単に飛べるのかな?
そうして月をぐるぐる回りながら、その昔、人間が降り立ったとかいう噂に聞いた場所はここかな? そんなことを考えています。
月面散歩に飽きたら、月をまた離れて、今度はどこへ行こうかと、考える。
うん、どこまでも行けそうな気がしてる。
振り返って見下ろした先には、青い星。
私は今から長い長い旅に出る。いつかきっと帰ってくるから。
その時まで、――ばいばいさようなら。
『遠くの空へ』
僕らは世界の平和の為、旅をする仲間。
今日は不気味な魔物がたくさん出るという、おどろおどろしいダンジョンへやって来た。
「ここの魔物は恐ろしく強いという。気を引き締めていこう!」
戦闘を進む僕は振り返り、仲間へと声を掛ける。
「おー!」
仲間は元気良く腕を上げた。
ダンジョンの奥は暗い。
僕は慎重に様子を伺い――、
「わっ!」
――耳元で大きな声がした。
僕の心臓は跳ね上がり、そこで記憶が途切れた。
「勇者ってばすぐ死ぬんだから」
教会で生き返らせてもらった僕は、仲間の不満を一身に受けていた。
いや、文句を言いたいのはこっちだ。
「驚かすなって、いつも言ってるだろ!」
「勇者がビビりなのがいけないんでしょ」
勇者である僕の性格は、たしかに昇進者の怖がりで……逆に、仲間の性格は、怖い物知らずのいたずら好きだ。
こうして、毎回驚かされては、声を上げる間もなく、死んでいる……。
「とにかく、もうやめて! 全然ダンジョン攻略進まないじゃん!」
「はーい」
とか言って、なかなかやめてくれないんだ。
驚きの感情を上回り、心臓が止まってしまう僕にも問題がある。しかし、それでもやめない仲間に、恐怖や不満の感情が沸き上がる。
はぁ……。仲間がこんなんで、果たして僕らはやっていけるのかなぁー?
『!マークじゃ足りない感情』
手のひらの上にスマホがある。
そのスマホで、あるアプリを開いている。
アプリには、たくさんの文字が並んでいる。たくさんの人がそれぞれの物語を紡ぎ、それが人の数だけ並んでいる。
君は誰かの物語を読んでいる。
そう、今は私の物語を読んでいる。
果たしてそれは、君にとってどう映るだろうか?
君が見てきたたくさんの景色の中の一つとして、記憶に残ってくれるだろうか?
『君が見た景色』
「…………っ……! ……っ、…………!!」
※あまりにも言葉にならず、状況の説明もできませんでした。
『言葉にならないもの』
背が高く伸びて、少し近くなった太陽を見上げた。
暑い夏だが、元気いっぱい上を向く。
みんなが私を見て楽しそうな顔をしている。
夏が終わり、項垂れる秋。
私の季節は終わった。
それでも私から零れ落ちる種が、この夏の記憶を来年まで持っていってくれる。
あの、よく似た太陽に、また会えるように。
『真夏の記憶』