家族と、そして近所の幼馴染の家族と一緒に、夏祭りへとやって来た。
小さな女の子と、同い年の小さな男の子は、お祭りの雰囲気にわくわくしていた。
たこ焼き、わたあめ、金魚すくい、宝釣り……たくさん遊んで、たくさん笑った。
しばらくすると、大きな音と共に、空に花火が打ち上がった。
目を輝かせて、二人の子供はそれを見上げている。
「もっと花火の近く行こう!」
男の子が女の子の腕を引っ張り、花火が打ち上がった方へと駆け出した。
「あ、ちょっと、待ちなさい!」
母の呼ぶ声なんて耳に入っていない。
その声は、人混みの中へと紛れていってしまった。
子供達はしばらく花火を見ていたが、両親の姿が見えないことに気付くと、途端に不安になってしまった。
「ねぇ……ママもパパもいないよぉ……」
「な、泣くなよ! すぐ見つかるって!」
泣き出しそうになっている女の子を見て、男の子は慌て出した。
どうしようどうしよう。
ポケットの中を漁ると、先程宝釣りで当てた、クマのキーホルダーが出てきた。
「こ、これやる!」
そのキーホルダーを突き出す。
女の子は涙が零れそうになっていた目を丸くして、そのキーホルダーを受け取った。
「かわいい……」途端に笑顔へと変わる。「ありがとう!」
男の子は照れたような顔をして言った。
「だから、その、一緒にいるから大丈夫。すぐ見つかるって」
「うん」
しばらくして、迷子のアナウンスが入り、無事家族と合流することができた。もちろん、しっかりと叱られたが。
それでも、女の子にとって、忘れられない夏の思い出となったのだった。
「それは、この間のお祭りで取っていたクマのぬいぐるみと同じクマか?」
少女のスクールバッグについたキーホルダーを見て、所属している部活の部長が言った。
「はい」
少し嬉しそうに笑う彼女を見て、部長はにやりと口の端を上げる。
「このクマがよっぽど好きなのか――それとも、君の幼馴染の関係の品かな?」
見事に言い当てられ、思わず真っ赤になる。
幼馴染も同じ部活だ。きっと部長は全て気付いている。
「秘密です!」
この間、部活のみんなで夏祭りへと出向いた。
そこで、自分でクマのぬいぐるみを取った。気付いたら、このクマのキャラクターが好きになっていたから。
そして、それから――いろいろとあった夏祭りだった。
こうしてまた、忘れられない夏が増えていく。
『夏』
たのしい。あの人と一緒にいるのは。
すばらしい日々。
ケイケンをたくさんさせてくれるの。
手紙を送るね。心配しないで。
『隠された真実』
夏。エアコンが壊れた暑過ぎる部屋の中。
昔使っていた扇風機を引っ張り出して、大の字で床に寝転がっていた。
少しでもさらに涼しくなりたいと、気休めにしかならない風鈴も飾り、その音を聴きながら目を閉じる。
暑い。音だけが、涼しい。
音に集中しているうちに、徐々に意識は遠のいていった。
『風鈴の音』
ガララッと大きな音を立て、教室の扉が乱暴に開かれた。
現れた男は、授業中だというのに、ツカツカと早足で中に入ってきた。そして、私の机の前で立ち止まると、こちらに声を掛けてきた。
「あなたはこんなところにいてはいけない。さぁ、行こう」
そう言って、手を伸ばしてくる。
「何!? どういうことなの!?」
私は目を丸くして言った。
「あなたには役目がある。姫」
私を『姫』と呼んだ彼は、伸ばしてきた手で強引に私の腕を掴むと、そのまま教室から引っ張り出した。
周りの声も聞こえないほど、ドキドキしていた。
まるで逃避行のよう。
彼は顔も整っていて、声も良かった。急に現れて、めちゃくちゃなことを言っているけど、それすら許されてしまうような。とにかく、素敵な人だった。
気付けば、私は見知らぬ地にいた。ここは――異世界?
「あ、あの……」
ようやく立ち止まったので、彼の背中に声を掛けた。
彼はこちらを振り返ると、掴んでいた手を離し、頭を恭しく下げた。
「突然すまない。世界を探し、異世界まで探して、ようやくあなたを見つけたんだ。思わず乱暴な行動に出てしまった」
何がなんだかわからないけど、そこまでして私を探していたなんて。さらにドキドキしてしまう。
「私の名前は『アレクサンダー』。『アル』と呼んでくれ」
「え、えっと、私の名前は『幸田 陽菜』。『ひな』って呼んでください」
「姫……いや、ひな。どうか、この世界を救ってくれないか」
顔を上げ、真剣な眼差しでこちらをまっすぐ見つめてくる。
世界を救う!? 私が!?
一体、これからどうなっちゃうの~~~~!?
――という妄想をしていたら、退屈な授業が終わった。
あぁ、このスマホの乙女ゲームみたいに、こんなことが起きたらなー。アル様に会いたいなー! まぁ有り得ないことはもちろんわかってるけどね。
『心だけ、逃避行』
16歳の誕生日、勇者は王様に呼び出され、魔王退治を仰せつかった。
「未成年になんてことを頼むんだ」
魔王を倒すには、まず伝説の剣を手に入れなければならない。
勇者は武器屋へ行くと、店主に告げた。
「伝説の剣ください」
「ヘイ、毎度!」
160Gを支払い、勇者は伝説の剣を手に入れた。
早速伝説の剣を振ってみる。
試し切りと称して木を切ってみたら、スパッと切断された。これはいい。
「うむ、やはり素晴らしい切れ味だ」
かぼちゃみたいな硬いお野菜も簡単に切れちゃうぞ。
武器も揃ったし、レベルを上げつつ、魔王城へと向かわねば。
勇者は町の外へ出た。
魔王が現れた。
「なんでいきなり魔王とエンカウントしてんの!? 普通スライムからだろ!?」
「そりゃ魔王だってお忍びで旅行くらいするよ」
勇者は大いに納得した。
「魔王! 覚悟!」
勇者:レベル1
魔王:レベル99
勇者は力尽きた。
さらに魔王が何か呪文を唱えている。
「いでよ! 我が下僕たち!」
ゴブリンやオークなどが大量に出現した。
「いや待って! もう力尽きてるから!」
オーバーキル。
「やはり俺にはまだ早かったみたいです」
復活した勇者は王様にそう報告した。
「そうか。仕方ない。こうなったら城の軍総出で魔王を迎え撃つぞ!」
かくして、数の暴力によって魔王は倒され、世界に平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。
「勇者ってなんだろう?」
勇者はその存在意義について38秒ほど考え込んだという。
それでも勇者はめげない。いい体験になったと、いい冒険に出られたと思おう…………本当か?
『冒険』